2020年7月14日 20:00
“自己責任”への疑問がきっかけに 小説『昨日壊れはじめた世界で』
その神様が“世界をうまく作れなくてごめんね”と自分で言っているわけです」
大人になりその言葉を思い出した彼らは、自分の今とどう向き合うか。たとえば大介については、
「私は人間の条件のひとつは理性があること、もうひとつは自分から何かに愛情を向けられることだと思っていて。大介は理性的な人間ですが、自分から何かを大事にしようとはあまり思っていなかった。そんな彼が2つ目の条件を手に入れていく話にしようと思いました」
また、印象的に残るのは幼い頃から窃盗癖のある稔が出会う女性・絵麻の言葉。〈(世界は)一度は、本当に壊れたのかもしれません。でも今は、また別の世界があります〉
現実世界の残酷さと同時に希望を描く香月さん。意外にもデビュー前は幻想的な作品を書いていたという。
「ある程度生きていると、現実を見たくなってきて。
人生は難しいし生まれてくる意味なんてないのかもしれない。でも、何かひとつでも、大事にできるものを見つけられたら」
そんな思いが詰まった作品だ。『昨日壊れはじめた世界で』家業を継いで書店を営む大介は、妻子とのすれ違いという問題を抱えている。そんな折、幼馴染みと再会、小学生時代のある出来事を思い出す。