今をときめく人気作家たちの器がそろうのが、〈essence kyoto〉。あれもこれもと迷いに迷うこと必至。落ち着いて、店主夫妻の作家にまつわる話にも耳を傾けて、しっかり選んでね。3月28日(月)発売Hanako1207号「大銀座こそナンバーワン!」よりお届けします。1.小野哲平 Teppei Ono「いつも『自分の器を手にした人を力づけたい』とおっしゃる。器を通して、思いを伝えたいという意志を持っている。自身が内に抱えた暴力性を、櫛目やブラシ、釉薬の表現を通して美に昇華させた芸術作品です」。右・鉄化粧碗(小)5,500円、左・薪丸湯のみ(大)6,600円。2.督田昌巳 Masami Tokuda一見、やきものだと思って手に取ると、あれ、軽い。実はこれ、漆塗りだ。目を疑う。そうとわかって、しげしげと眺めると、何とまぁ丁寧な仕事ぶりかと感嘆し、手に入れたくなる。上・平皿(チェリー白)14,300円、下・浅鉢(チェリー黒)23,100円。3.赤木明登 Akito Akagi塗師・赤木さんは毎日、散歩に出かける。吹雪の日も台風のときも。歩きながら自然を体で感じ、小さな変化も見逃さない。その散歩を何十年も続けていることに店主夫妻は感動する。職人仕事の真髄を体現していることに。能登三ノ椀13,200円、山道匙13,200円。4.竹俣勇壱 Yuichi Takemataオーダージュエリーを手がけていたが、赤木明登さんの勧めもあって、カトラリーなど生活道具を制作するようになったという。アンティークからインスパイアされたという味わい深い形が魅力となっている。輪花皿(L)9,900円、ケーキスプーン3,080円。5.二階堂明弘 Akihiro Nikaido「自分が美しいと思える形を、土で出せるようにとやってきた結果が今の形」と二階堂さん。「器を作ることは古代から鎖のように連なり、続いてきたことで、今という鎖の中に自分があることを大切にしたい」とも。右・錆器ドラ鉢6,600円、左・焼き締め茶8,800円。6.吉川和人 Kazuto Yoshikawa素材のもつ魅力を最大限に生かしたカトラリー、器をはじめとする木の小物や家具が主なフィールド。年輪や節、朽ちた部分などを、そのまま生かした作品も。1点ずつ、色味や木目が異なる。カッティングボード右・ブラックウォルナット、左・チェリー各19,800円。7.安藤由香 Yuka Andoアメリカ・ロサンゼルスでの社会生活を経て、陶芸家を目指して帰国。デンマークでの体験をきっかけに、空や海など、自分が美しいと感じた自然の色を釉薬で表現している。現在は、兵庫県丹波篠山市で作陶。花器19,800円、中鉢(ネイビー)7,150円。使うことで作り手と対話、手に取ることから始まる。平安神宮や美術館などを擁する京都・岡崎エリア。その一角、琵琶湖疎水を望むしゃれた建物の2階にあるのが〈essence kyoto〉だ。ゆったりと落ち着いた空間に、ギャラリーのように器が並ぶ。小野哲平、赤木明登、二階堂明弘……。少しでも器に関心のある人が見たら、うれしくて小躍りしそうな人気作家ばかり。どうして、こんなに集められるのか。実はこの店、京都には縁もゆかりもなかった夫婦が開いた店だ。夫の荒谷啓一さんは20年以上、主にアジアで暮らし、里恵さんとの結婚を機に帰国。「自分たちも仕事を通して成長しながら、一生続けられる仕事をと思って、好きだった器の店を開いたのです」と、啓一さん。簡単におっしゃるのだが、ただ好きだから、とできる店ではない。「日本のよさを伝える店にしたい。器だけでなく、お茶や和ろうそくもですね。だから、外国の方も多い京都がいいと思って」と、里恵さん。何も基盤がない中、作家とのコンタクトは、いってみれば当たって砕けろ方式。この人がいいとなったら、直接交渉していったという。「どの人にも僕たちの思いを聞いてもらって、また、いろいろと話をして置かせていただくことになったんです」。2人の熱意の賜物が、店のあちこちで光を放つ。現在、扱っている作家は20人弱。日常に使える器を軸に、常設を中心に展開している。器は使ってこそわかる。手のひらで感じたり、唇で感じたり、そうして日々愛でるものだ。作家ものの器のよさって、どんなところにあるのだろう。「器は、作家の方が自分と向かい合い、深いところまで見つめてきた内面の反映なんです。お話を聞けば聞くほど、その深さがわかります」(Webサイトのインタビューより)と啓一さん。「器を使うことで、作家の思いが伝わってくる。だから、愛着が出てくるんです」と里恵さん。自由に器を手に取るだけでも、心が豊かになるような気がするはず。Navigator…〈essence kyoto〉京都器のほか、妻の里恵さんが手がける、信頼できる生産者のシングルオリジンの茶葉、唐紙工房〈かみ添〉に別注した唐紙の便箋なども並ぶ。京都府京都市左京区岡崎円勝寺町36-1 2F075-744-068011:00~18:00月休(不定休あり。インスタグラム@essencekyoto参照)(Hanako1207号掲載/photo : Masatomo Moriyama text : Michiko Watanabe)
2022年03月30日変化を見せる、2020年代の色香論。語ってくれたのは、作家の鈴木涼美さん。色香とは、人を惹きつけ、魅了する力のこと。それは人と人とのコミュニケーションの中に生まれ、存在するものだ、と鈴木さんは語ります。“弱さや未熟が色香”の時代は終焉。会えない世界でその概念は変化する。「色香を感じる第一歩は、“記憶に残る人であること”だと思うんです。下品な喩えですが、例えば、かつてはエロ本、今だとエロ動画などを見て男性は自慰行為をするわけですが、そこで目にした“エロい女性”が記憶に残るかといったら、たぶん残らないでしょう。それはたぶん、“記号としてのエロ”であり、即物的なもの。一方、色香というのはもっとメモラブルな何かで、相手と関わる中で生まれ、そして感じるもの。特に現代においては、人や社会に対して心や態度が開いているコミュニケーション上手な人のほうが、相手の記憶に刻まれ、ふと“あの人って…”と心をドキッとさせる確率が高くなっている気がしています」色気や色香=性欲という公式はもちろん成り立つが、決してそれだけではなく、色気の解釈が広がっている、とも。「かつて色気といえば、それのみ、という時代もあり、その一方で女性にとっては、人としての魅力と色気がイコールにならないことが、長年のジレンマでした。日本の男性が求める女性像は、学歴があったり、才能があったり、仕事ができるといった女性の真逆、つまり弱くて未熟なほうが色っぽいと考える、という事実は、今でも根強くあります。つまり今までの日本の女性は、人としての成長を取るか、色気を取るか、その選択を迫られていたんです。ただようやく社会が成熟し、才能や自信を持つことが人としての魅力を作り、結果的にそれが色香に繋がるという考え方に、女性主体で是正されつつあるのを、徐々にですが感じます。仕事か色気かの二択ではなく、好きな生き方をし、自分らしい色香を持つ。日本の女性が少しずつでもそう思えるようになったのは、大きな進歩です」弱さに色気を感じるということ自体は、2020年の今も変わらない。でも弱いだけでは、もはや武器にはならない。「以前から、弱さが人としての隙になり、“守ってあげたい”と思わせ人を惹きつける、といわれますが、できない、わからないというような“100%の無垢や未熟さ”に色気を感じる人は、大人の社会では減ってきている。それよりも、強い女性や、社会的にある程度の地位にいるような人が見せる“完璧じゃない何か”のような弱さこそが、これからは色気として作用すると思います」色香は、形ではない空気のような存在。目に見えないゆえに感じ取るものといわれるが、コロナ禍で人と直接会う機会が減る中、その概念にも変化が?「家に籠もれば籠もるほど、社会に開いている部分が減りますし、電話やメール、ビデオ会議などを通じたコミュニケーションでは、“雰囲気や空気による伝播”は皆無なので、すべてを言葉で判断するしかない。この状況が続くとしたら、言葉の力を持っている人がコミュニケーション上手になりますし、結果、色香を感じさせられるのでは、と思います」すずき・すずみ1983年生まれ、東京都出身。AV女優、新聞社勤務を経て作家デビュー。著書に『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』(小社刊)などが。※『anan』2020年11月25日号より。イラスト・micca(by anan編集部)
2020年11月19日「世界は壊れはじめている」。そう言われたら絶望する?それとも?香月夕花さんの『昨日壊れはじめた世界で』は、思い通りにいかない人生を見つめ直す大人たちの物語。ままならない人生と向き合いながら、小さな一歩を踏み出す大人たち。40代の大介は幼馴染みと再会し、小学生時代の出来事を思い出す。同級生4人と忍び込んだマンションの最上階で、住人の男に「世界はもう、昨日から壊れはじめている」と告げられたことがあったのだ。「発想の発端は、よく言われる“自己責任”という言葉です。人はいつどこで生まれてどんな能力を持つのか選べないのに、それを責める人が多いと感じていて。ままならない状況の中でも生きる人たちを描いて、読む人にその大変さを追体験してもらいたいなと思いました」大介をはじめ、大人になった彼らの視点から今と過去が描かれる連作短編集。なかには大介に存在すら忘れられていた恵という女の子もいる。「実は最初に構想したのは4話目の恵の話です。ないものにされている人の話を書こうと思いました」マンションの住人の男については、「私は神様の存在を信じているわけではありませんが、もしも神様が実際にいたらどんな人だろう、と考えました。その神様が“世界をうまく作れなくてごめんね”と自分で言っているわけです」大人になりその言葉を思い出した彼らは、自分の今とどう向き合うか。たとえば大介については、「私は人間の条件のひとつは理性があること、もうひとつは自分から何かに愛情を向けられることだと思っていて。大介は理性的な人間ですが、自分から何かを大事にしようとはあまり思っていなかった。そんな彼が2つ目の条件を手に入れていく話にしようと思いました」また、印象的に残るのは幼い頃から窃盗癖のある稔が出会う女性・絵麻の言葉。〈(世界は)一度は、本当に壊れたのかもしれません。でも今は、また別の世界があります〉現実世界の残酷さと同時に希望を描く香月さん。意外にもデビュー前は幻想的な作品を書いていたという。「ある程度生きていると、現実を見たくなってきて。人生は難しいし生まれてくる意味なんてないのかもしれない。でも、何かひとつでも、大事にできるものを見つけられたら」そんな思いが詰まった作品だ。『昨日壊れはじめた世界で』家業を継いで書店を営む大介は、妻子とのすれ違いという問題を抱えている。そんな折、幼馴染みと再会、小学生時代のある出来事を思い出す。新潮社1750円かつき・ゆか作家。1973年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒業。2013年に「水に立つ人」で第93回オール讀物新人賞を受賞。著書に受賞作を含む短編集『水に立つ人』、『永遠の詩』がある。※『anan』2020年7月15日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年07月14日朝井リョウさんの新作『発注いただきました!』は作家生活10周年記念のお祭り本。企業等から依頼を受けて書いた小説やエッセイ20編と、書き下ろし短編を収録。受注作は依頼内容実際に書いた作品感想戦の順に掲載。感想戦では工夫した箇所等がユーモアたっぷりに語られる。企業からの依頼にどう応えた?工夫が楽しいタイアップ作品集。「発注の内容をオープンにしていいと言ってくださった企業の方々に感謝しています。感想戦は、ここを頑張りました、褒めてください、と自分から言っていくスタイルです」たとえばゾンビ漫画『アイアムアヒーロー』の映画化記念のアンソロジーに書いた青春短編は、注文されてないのに原作のキャラクターや台詞を登場させ、かなり苦労したのだとか。「でも、私の短編に対しては驚くくらい読者の感想がなくて。もとからの私の読者に届けたら面白がってくれるのではと思い、そのためにこの本の企画が始まったんです」難しかったのはキャラメルの箱に載せた、文字数の少ない掌編。「数百字のなかに登場人物の情報を入れなくちゃいけない。文字数が極限まで削られている俳句のすごさを思い知りながら書きました」一方、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と『チア男子!!』のコラボ小説では、思わぬ初体験が。「両さんを登場させたら、もう勝手に行動して事件を解決してくれるんですよ。作家がよく言う“登場人物が勝手に動く”というのを初めて体験しました。しかも自分じゃない人が作り出したキャラクターで」思わぬ仕掛けとしては、「基本的には、登場人物の名前にその会社の会長や社長の名前を使っています。社内ウケが欲しくて」と、読者、商品、クライアント全方向にサービス精神を発揮。「タイアップは“やりまっせ!”という意識に変わって、つい“全力下僕”をやっちゃうんですよね」ただし最後の書き下ろし「贋作」は、まったく異なる読み心地。「頭にあったけれど出しどころがなかった話を書きました。自戒を込めて書いています」昔から「怒り」が執筆の原動力と語っていた朝井さんらしい一編だ。「今後は“怒り”がマイルドな名前に変わりそうな気がします。でも“読んで幸せな気持ちになれた~”という小説を書けるようになるまではまだ時間がかかりそうです」あさい・りょう1989年生まれ。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年に『何者』で直木賞、翌年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。『発注いただきました!』キャラメルが登場する掌編、aikoの楽曲を題材にした小説、“20”にまつわる短編…さまざまな発注にどう応えたのか?タイアップ作品集。集英社1600円※『anan』2020年4月8日号より。写真・土佐麻理子(朝井さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年04月02日先の天気が分かる空読、病気に効く種をあてる草読、虫と通じ合える虫読…。森絵都さんの新作『カザアナ』は、ちょっぴり不思議な能力を持つ〈カザアナ〉一族が登場する、少し未来の日本の物語。異能の一族と過ごす日常と冒険。愉快&痛快な近未来エンタメ。「未来の話を書いてみたかったんです。今、みんな漠然と、オリンピック後の日本はどうなるんだろうと思っている。そこを舞台に新しい物語を展開できないかなと考えました」観光が政府主導の一大事業となり、古き文化と街並みを維持するために人々の生活は制限され、監視されている日本。母、中学生の娘、小学生の息子の入谷一家は、カザアナ一族と出会い交流を深めるなかで、様々な問題と対峙する。それは学校の理不尽な校則だったり、自治体の問題であったり…。ただし、「カザアナたちが正義のために能力を使う話にはしたくなくて。もっとくだらないことに使って(笑)、結果的に誰かの役に立つくらいがいいなと思いました。入谷家と彼らがアナログな力で、AI化が進んだ息苦しい社会に風穴をあけていく姿を書きたかったんです」決してシリアスな内容ではない。それどころかとぼけた会話で笑わせるし、コントのような場面も。「『みかづき』を書いた時に、知人に“ギャグが足りない”って言われたんです。ですから、今回は全力でギャグを入れました(笑)」とはいえ物語は少しずつスケールを広げ、謎のゲリラ組織と対峙した上、しまいには国家間の問題にも首を突っ込むことに…。入谷家の3人もそれぞれ奮闘するわけだが、「家族だから一緒に行動する、という流れにはしたくなかったですね。一人一人が自分の目的で動くようにしたかった。自分の意思で決めて行動することが大事ですから」カザアナ=風穴という言葉に、様々な意味が感じられる本作。「私の中に、いつも“抜け道”のイメージがあるんですよね。生きづらい世の中で萎縮することがあっても、抜け道はどこかにあるって思っている。今回はそれがカザアナという形になりました」ちなみに森さんは、もしカザアナだったらどの能力が欲しいですか?「うーん。草読かな。胃腸の調子が悪い時にどの薬草を飲めばいいか分かる程度の力がいいです(笑)」もり・えと1990年「リズム」で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。児童文学の賞を多数受賞するなか一般文芸も執筆、2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞。『カザアナ』オリンピックが終わった後の日本。中学生の里宇は、ある日、造園業を営む女性と出会う。実は彼女、カザアナという一族の末裔で…。朝日新聞出版1700円※『anan』2019年9月4日号より。写真・水野昭子(森さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年09月02日待ってました、と言わずにはいられない。自らの名前を冠した「劇団、本谷有希子」で、過剰な自意識に苛まれる人間たちを描き人気を博した本谷有希子さん。その後、作家活動をスタートさせ、三島賞や芥川賞を受賞するまでに。その一方で演劇活動はお休み状態が続いた。その本谷さんが久々に演劇『本当の旅』を上演する。本谷有希子が演劇に戻ってきた! 「以前とは違う表現を探りたい」「演劇から足を洗う気はなかったです。それは一瞬も。ただ、どのタイミングにやりたくなるのかがわからなかっただけで。劇団をやっていた時は、公演の時期を先に決めて、何をやるかを後から見つけていたんですが、いつしかそれがルーティンになっていて。そんな時に小説を書き始めたんですけれど、小説って全力で書いたら、違う景色が見えてきて、書くのが楽しくなってしまって。いま、演劇でも同じような経験ができないかと思っているんですが」そして3年ぶりとなる舞台は、自身の短編「本当の旅」を題材に。「去年からワークショップという形で演劇活動は始めていましたが、そこでたまたま、自分の小説をお題にしてやってみたら、思わぬ手応えがあったんです。これなら以前とは違う表現が探れるような気がして、今回の公演に繋がっていったんです」その“違う表現”とは?「これまでは、ひとりの主人公を中心に周りの人がいて物語ができていましたが、この作品では、明確には主人公を設けずに群像劇の形をとっています。配役も決めず、同じ役を役者が入れ替わり演じますし。SNSの話ですが、舞台上で実際に撮影して映像で見せる方法を考えてみたり、デジタルの部分を人間の体で表現したり。これまでやったことのない作り方で面白いです」『本当の旅』は、旅行先のマレーシアで、インスタグラムに楽しそうな写真をアップすることに夢中になり、現実よりもネットの中の世界こそが本当だと信じてしまう男女の物語。「不自然で気持ち悪いけれど、なんか面白い。その“空気”みたいなものをそのまま舞台に提出したい。私、現実を直視しない人が好きなんです。彼らにはリアルの大事さに気づかないで突き進んでほしいですね」もとや・ゆきこ1979年生まれ。自身が主宰する劇団公演『幸せ最高ありがとうマジで!』で岸田國士戯曲賞を受賞。小説では’14年に三島由紀夫賞を受賞。最新作は短編集『静かに、ねぇ、静かに』。『夏の日の本谷有希子「本当の旅」』“お金で買えない価値”を求めて旅行に出た男女3人。“楽しそうな”写真をアップすることに夢中になる彼らだが…。会場では作中に登場するマレーシア料理の提供も。8月8日(木)~18日(日)原宿・VACANT作・演出/本谷有希子(『静かに、ねぇ、静かに』講談社刊より)出演/石倉来輝、今井隆文、うらじぬの、大石将弘、後藤剛範、島田桃依、杉山ひこひこ、富岡晃一郎、福井夏、町田水城、矢野昌幸全席自由(整理番号付き)4300円別途1ドリンク500円(共に税込み)(問)ヴィレッヂ TEL:03・5361・3027※『anan』2019年8月14日-21日合併号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2019年08月12日距離も時間も虚実すら超えた世界を見せてくれる「本」。芥川賞作家の上田岳弘さんと、直木賞作家の島本理生さんが読んできた好きな海外文学作品と、その向こうに広がる世界を語り合います。海外文学を読み始めた頃。島本:小さい頃は海外の児童文学も読んでいましたが、大人向けの海外文学を読み始めたのは中学生の頃ですね。カポーティの『遠い声 遠い部屋』などが好きで、そこからジョン・アーヴィングやカート・ヴォネガットといったアメリカ文学を読むようになりました。日本とは違う土地の広さとか匂い、空気を感じさせるものや、乾いた文体が好きでした。上田:僕は中高生の頃に趣味で海外のファンタジーを読んでいましたが、大学生の時に村上春樹さんが訳したり影響を受けている海外小説を読み始めるというベタな人間で、僕もヴォネガットやカポーティ、フィッツジェラルドを読みましたね。そういえば、春樹さんの『風の歌を聴け』に、デレク・ハートフィールドって作家が出てくるじゃないですか。島本:出てきましたね。上田:彼の作品も読んでみたくて探したら、そんな作家は実在しないっていう(笑)。島本:私も、そういう作家が本当にいるんだって思っていました。上田:あれは、あの頃の文系少年少女がハマるトラップですね(笑)。僕はそれから大学生の時に作家になるために勉強しようと思って、体系的に200冊くらい読んだんです。その時にベーシックなものとしてシェイクスピアやドストエフスキー、ミラン・クンデラなどを読みました。島本:海外のものが多かったんですか?上田:そうですね。夏目漱石も読みましたが海外小説が多かったです。性格的に世界史と日本史だったら世界史を選ぶタイプですし。日本は世界の一部なので、グローバルスタンダードというか、読書も世界の基準に合わせたほうがいいんじゃないかなと思っていました。あまり文体の研究とか今の日本文学に何が起きているかは気にしなかった。今も読むのは海外文学が7割です。島本:上田さんの小説には海外文学の雰囲気があるなと思っていました。少し重力が違うというか、自由な感じがして私、スペインに行く飛行機の中で上田さんの『私の恋人』を読んだんです。それがもう、しっくりきて、それこそ作中の世界の果てまで一緒に行ったような気がしました。上田:ありがとうございます。島本:私自身は海外小説と国内小説の割合は半々くらい。でも文体を学ぶのは海外小説が多かったです。日本の近代文学は私小説が多いですが、私は個人の内面よりも情景描写を書きたくて。それこそ一時はカポーティのような潮騒とかの比喩を書きたくて「さざ波のように」って表現をかなり使いました(笑)。上田:サガンの『悲しみよ こんにちは』は読みました?島本:はい。でも私、サガンよりもマルグリット・デュラスのほうが好きなんですよね…。上田:僕、仕事の必要があって最近読み返したんです。あれって、アラフォーの恋愛を17歳の女の子の目線で描いているじゃないですか。19~20歳で読んだ時は少女の視点で読んだけれど、今読むと40歳のほうの目線になるので、大人たちが打算込みでいろいろやっているのがわかる。17歳からは今の僕もこんなふうに見られているのかな、って怖くなりました(笑)。島本:確かに私も昔、100%少女の視点で読んだので、今読むと感じ方が変わるかもしれない。上田:サガンよりもデュラスが好きというのは?島本:昔読んだ時はサガンの主人公はただ生意気だなと思って。デュラスは同じ恋愛を書くにしても、絶望して達観した中に情熱や官能を秘めている。基本的に恋愛ものは絶望があるものが好きです。上田:絶望のある恋愛もの…。自分好みの海外恋愛小説。島本:上田さんの『私の恋人』もそうですけれど、男の人が一方的に女の人を追いかける話も好きで、アンナ・カヴァンの『氷』は、氷の壁が迫ってくる世界で、超法規的な手段を使って地の果てまで好きな少女を捜しに行っては、フラれてすごすご帰る話。設定の大胆さとリアリティとのバランスが不思議な一冊です。グレアム・グリーンの『情事の終り』は嫉妬深い作家が、自分を振った女性に他の男ができたと思って調べ始める。信仰が絡んでくる話なんですが、キリスト教と恋愛小説の親和性って高いなと感じて、自分も宗教と恋愛というものを書いてみたくなりました。上田:フランスのミシェル・ウエルベックやイギリスのイアン・マキューアンは読みます?この二人は僕にとって、淀んだヨーロッパの2大巨頭なんです。西洋文化はこの500年くらいのトレンドですけれど、今はもう煮詰まっている。その問題を書いている二人ですね。ウエルベックのほうが露悪的で原始的で欲望に忠実。たとえば『服従』はヨーロッパがイスラムのマネーや文化に服従していく話なんですよ。島本:難しいけど面白そう。上田:マキューアンの『土曜日』なんかは、脳神経外科医が認知症の母親をシステマティックに面倒を見たりする様子や、テロの脅威が描かれていく。彼らの作品のように“現実ってこうですよね”と突きつけてくるものが僕は好きだし、影響を受けていると思います。『遠い声 遠い部屋』著:トルーマン・カポーティ訳:河野一郎590円(新潮文庫)『ティファニーで朝食を』などで知られる、戦後のアメリカ文学を代表する作家が、23歳の時に書いたデビュー作。父を捜すためにアメリカ南部を訪れた少年を主人公にして、繊細なその心の内や街の風景を、鮮烈な比喩を用いながら綴った半自伝的小説。『悲しみよ こんにちは』著:フランソワーズ・サガン訳:河野万里子490円(新潮文庫)フランスの女性作家、サガンが18歳の時に発表したデビュー作。17歳のセシルが父と彼の愛人と過ごすコート・ダジュールの別荘にやってきた亡き母の友人、アンヌ。はじめは彼女を慕うセシルだが、父を取られると感じて反発、やがてある計画を思いつく…。『氷』著:アンナ・カヴァン訳:山田和子900円(ちくま文庫)著者はイギリスの小説家で、SFや幻想文学の色の強い作品で知られる。異常気象で寒波が押し寄せるなか、一人の男が異様な執着心で一人の少女を捜し求める。冷たくも美しい氷のイメージの中で、幻想と現実を交錯させながら描き出すディストピア小説。『情事の終り』著:グレアム・グリーン訳:上岡伸雄670円(新潮文庫)第二次大戦直後のロンドン。小説家のモーリスは、知人のヘンリーから妻のサラが浮気をしているのではと相談される。実は以前、モーリスはサラと不倫関係にあり、彼は一方的に別れを告げられた身。サラの今の浮気相手を知ろうと調べ始めるのだが…。『服従』著:ミシェル・ウエルベック訳:大塚 桃920円(河出文庫)センセーショナルな作品を発表し続けるフランスの現代作家の長編。舞台は2022年、極右政党を倒して穏健派のムスリム政党が政権を握ったフランス。文学教授の「ぼく」は、パリを去ることにするが…。テロ、移民といった現実問題を盛り込んだ予言的な作品。うえだ・たかひろ作家。1979年、兵庫県生まれ。2013年「太陽」で新潮新人賞受賞。’15 年『私の恋人』で三島由紀夫賞、今年『ニムロッド』で芥川賞受賞。新作は世界文学的大作『キュー』。しまもと・りお作家。1983年、東京都生まれ。2001年に『シルエット』で群像新人文学賞優秀作に入選。’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、’18年『ファーストラヴ』で直木賞受賞。※『anan』2019年7月10日号より。写真・小笠原真紀取材、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年07月05日時代を彩るエンターテインメント作品の数々。本の世界で今まさにチェックすべき新星は誰なのでしょうか?いい本や作家を見出す選書眼に定評がある、書店員の新井見枝香さんに話を聞きました。1作ではなく、次も売れる。その力がある人が、ブレイク作家。「ブレイクした作家さんは、新作が出たときの売れ行きの初速が違います。みんなが、“あの人の本が出たんだ!”って、ワクワクして買っていく感じがありますね」と言うのは新井さん。「一冊が当たる、というのはある意味多い話なのですが、次も読みたいと思わせる力がないと、連続して売れないし、作家としてブレイクしたとは言えない気がします。とはいえ、本を出すリズムというのも非常に大事で。読者の“次を読みたいな”という気持ちがピークの間に次を出す、といったような、タイミングを読む力も、今の作家には必要な気がします」新井さんにブレイク作家3人を挙げてもらいました。“今” を生きていることを感じさせる、注目の歌人。木下龍也若い女性たちに意外と人気なのが、短歌というジャンル。木下さんは、そのフィールドで今最も注目されている若き歌人。短歌は短編小説より、もっと言葉を削ぎ落としてつくるもので、言葉が少ないからこそ、いろいろと想像が膨らむところがおもしろい。彼の書く短歌には、現在私たちが使っている“等身大の言葉”が出てくるので、その同時代感がとても楽しくて、ハッとするツイートを読んだときにちょっと感覚が近いんです。でも中には、息が苦しくなるような恋の歌や、自分を嫌いになるような歌を照れることなく撃ってくる。そのバランス感覚が、才能ですね。木下龍也1988年生まれ、山口県出身。‘11年より作歌を始め、第41回全国短歌大会にて大会賞を受賞。‘13年、歌集『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)を発売した。『きみを嫌いな奴はクズだよ』尾崎世界観も絶賛する一冊。ピンク色の装丁も美しく、新井さん曰く、「本棚にあるだけで小気味よい」。¥1,900(書肆侃侃房)圧巻の書き出しで、読者を不思議な世界に誘い込む。大前粟生(あお)文芸好きの間で今すごく盛り上がっているのが大前さん。最新刊の『私と鰐と~』は短編集なんですが、どの作品も、書き出しの1行目がものすごいパワーパンチで、一瞬にして引き込まれます。例えば「ビーム」という話は、「妹の右目からビームが出て止まらない」って書き出しで始まるんです。力が抜けていて、独特。まさに新しい書き手だなって思います。ショート・ショート(特に短い小説のこと)って、オチだけが大事にされがちですが、大前さんの物語はおもしろいままあっさり終わる。その、いい意味のサクッとした存在感がとてもおしゃれだなあと思います。大前粟生1992年生まれ、兵庫県出身。‘16年、短編小説「彼女をバスタブにいれて燃やす」が、「GRANTA JAPAN with 早稲田文学公募プロジェクト」で最優秀作に選出され、小説家デビュー。『私と鰐と妹の部屋』短いものは見開きで完結する、そんなショートストーリーを53作収録。おかしさと悲しみが溢れる一冊。¥1,300(書肆侃侃房)芥川賞受賞で注目度アップ。独特の文体を楽しんで。町屋良平芥川賞ノミネート2回目で受賞し、今まさに時流に乗っている作家さん。‘18年の『しき』ではダンスをする高校生を描き、芥川賞受賞作の『1R1分34秒』ではボクシングをテーマにしていて、身体的運動と言葉の関係に強いこだわりを感じます。オリジナリティの強い文体で、中学生でも読めるような漢字を、あえてひらがなにしたりもするんです。でも読んでいると、とても気持ちがいい。おすすめの『青が破れる』は、主人公のボクサー的思考が新鮮な青春小説。文庫になり小説の一部分をマンガにしたものが収録されているので小説を読み慣れない人も、入りやすいと思います。町屋良平1983年生まれ、東京都出身。高校卒業後、フリーターをしながら小説を執筆し、「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞。今年『1R1分34秒』で、第160回芥川賞を受賞。『青が破れる』青年・秋吉は、ひと冬に彼女が死に、友人が死に、そして友人の彼女までも亡くす。マキヒロチのマンガも収録。¥680(河出文庫)識者・新井見枝香さん書店員。『HMV&BOOKS 日比谷コテージ』勤務。著書に『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)など。最も気に入った作品に贈る「新井賞」を‘14年に設立。メディアからも注目されている。※『anan』2019年7月3日号より。写真・中島慶子(by anan編集部)
2019年07月02日こんにちは!もうすっかり季節は春になりましたが、、ちょっと記憶を巻き戻して、3月末に札幌で開催させていただいたワークショップについてお話しようと思います。 今年はチャンスがあれば行った事のない色々な土地でワークショップしたい!という密かな目標がありまして、その第一弾として札幌で開催させていただける事になりました! まず札幌に行く為の第1関門として...飛行機に乗るというヒヤヒヤ案件が。実は飛行機の突然襲ってくるヒュン!という感覚が苦手で...新幹線移動出来るとこは絶対新幹線を選んでいました。しかし札幌に行くには飛行機しかないと10数年ぶりに飛行機に乗る決意をした訳です。 友達の隠し撮りで私の緊張が伝わるでしょうか?笑 今回は友達が一緒の飛行機だったので何とか大丈夫でしたが、久々に乗った飛行機は非常に手に汗握りました...克服できるかも?と思ったのは甘い考えだったようです。 北海道上空までやってくると景色も気を紛らわせてくれて写真を撮る余裕も出てきました。 前日あたり雪が降っていたとの事だったので天気が良さそうで一安心! 陸地に降り立つと一気にテンションもあがりいままでの怯えはどこかに消え去りました(単純)空港ではエビ味のラーメンを食べ、(ビール飲みかけすみません…笑) 夜はすすきのへ! 着いた日はあっという間に夜になってしまったので、札幌らしいものといえばこの看板の写真しかありませんでした(苦笑) さあ、いよいよ明日はワークショップ当日! ワークショップのお話は、また次回に続きます。
2019年05月04日こんにちは。フェーヴ作家の竹内美咲です。これから日々の制作のこと、日常のことなどをコラムにさせていただくことになりました。フェーヴとは?そして私の作品の紹介は、以前特集していただいた記事をご覧ください。今回は5月に参加させていただく、ちいさくてかわいい世界が堪能できるイベント「フェーヴの世界展」についてお話ししたいと思います。 主催の my charm 磯谷佳江さんはフェーヴの愛好家でフェーヴについての本も出されている方。(写真は以前フェーヴ展で購入したフランスのフェーヴ、本は読み込みすぎてボロボロに...)イベントではフランスのメーカーや工房のフェーヴ、日本のフェーヴがずらっと並びます。 そして、毎回展覧会のテーマがあり、今年は”猫”。日本の作家さんたちが作る、テーマにちなんだフェーヴも、このイベントならではのお楽しみです。 さらに、会場では日本各地のパティスリーが作ったガレット・デ・ロワのカット販売もあるのがとっても嬉しいところ!お土産にガレット・デ・ロワを買い、会場で見つけたお気に入りのフェーヴを眺めながらお家でお茶をするのが至福のひと時。 私も今年のテーマ、猫のフェーヴを製作中です。ガレットデロワを抱えてクラウンを冠った猫。展覧会用の限定フェーヴです。 完成までの工程を少しお見せします。 そして、完成したフェーヴがこちら! お気に入りのフェーヴを探しに、是非いらしてくださいね。 My Charm Les Feves 2019-フェーヴの世界展 10-2019年5月17日(金)~19日(日)escalier.C エスカリエ・セー東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-14FRCビル3Ftel 0422-22-1171open 平日11:00~19:00 土日12:00~18:00多彩なモチーフで作られた現代のフェーヴ、フランス各地のフェーヴ工房で作られた手作業のぬくもりを感じる職人のフェーヴ、有名店のオリジナルフェーヴ、日本の作家さんのフェーヴを多数展示販売いたします。2019年My Charmオリジナル・フェーヴのテーマは“猫”。3日間を通して数種類のガレット・デ・ロワやパン・デ・ロワ(南仏のガレット)もピース販売いたします。<ゲスト> ※五十音順・敬称略フェーヴ : Anano / 北原裕子 / KIMURA & Co. / 小菅幸子・内山太朗 / 竹内美咲 / deccoガレット・デ・ロワ : Oeuf / A.K.Labo / patisserieR / milky pop.アクセサリー・雑貨 : waterblue / mica TAKEO / milky pop.
2019年04月21日こんにちは!今回は次に控えているお仕事のお話を。 インスタグラムではお知らせ済みですが、〈AYANOKOJI&Ruminy fabrics by CHONO〉というタイトルでコラボ作品を作らせていただくことになりました。 CHONOとは、JAPAN MADEを中心にした丁寧なものづくりを通して、レディースウェアを中心に展開をするブランド。『imagine fabrics for lifestyle』をキーワードに、日本の繊細かつ確かな技術力を持つ職人の方々の手を借り、生み出されるオリジナルファブリックを使用。ひとつひとつのファブリックにストーリーがあるものづくりをしており、ファブリックネームがついています。 今回京都伊勢丹さんのお力添えでこのような素晴らしいコラボレーションが実現した訳ですが、お話いただく前から素敵だなと思っていたブランドの生地を使って自分の好きなようにチャームを作れるなんて…夢のようでした。ブランドの考えや取り組みをお伺いしていくと自分が日々思っていた「もったいないをなくそう」という理念も合致していたりして本当に出会うべくして出会えた(片想いかも?笑)感じです。 具体的にはどういう事かというと、ブランド側は、お洋服を仕立てる際に出るハギレの部分など、どうしても出てしまう余りの部分を何か再利用できないか?という考えを持っていらしたこと。そしてRuminyとしての視点からすると、オリジナルファブリックなど他にはない生地のハギレ捨てるのもったいないな~!まだまだ沢山使えるのに...という考えがあり、そんな2つの「あったらいいな」が京都伊勢丹さんのおかげで実現したという訳です。 しかもその話を事前にお話ししていた訳じゃないのに引き合わせていただき、結果同じような考えがあったという事なんです。これは間違いなく両思いですよね?笑 そんなこんなで前置きが長くなりましたが、このスペシャルコラボレーションをぜひチェックしていただきたいです! 〈AYANOKOJI&Ruminy fabrics by CHONO〉■イベント会期:4/10(水)~4/16(水)■場所:ジェイアール京都伊勢丹 3階=特設会場※詳細はInstagram(@runi24)をご覧下さい。 ミニサイズブローチバッグ。 こちらのファブリック名は、「fly me to the moon」。 夜空に想いを馳せるある少女の見た風景の星屑柄ファブリック。CHONOブランドスタート時より人気のファブリックです。 「stella dot 」。輝く星が描かれたシンプルな中に遊び心を取り入れたファブリックです。シックで印象的なモチーフに仕上げるために凹凸感のある特殊プリントを採用。パールの粉を顔料に混ぜ、ニュアンスホワイトのピンドット調に仕上げています。 「sincere(シンシア)」。無垢な、という意味のファブリック。シェイクスピアの名作「真夏の夜の夢」よりインスピレーションを受け、キューピットがある男女を恋に落とそうとするあるワンシーンより、恋に落ちる前の無垢な状態をモノトーンで表現。どこかに恋の媚薬が隠れています。 次回は札幌ワークショップについてお話しします!
2019年04月09日色気とは一体どんなもの?芥川賞作家の平野啓一郎さんに、色気について語ってもらいました。もっと混じり合いたいと、こちらを前のめりにさせる何か。僕の小説の登場人物は、色気があると言われることがあります。そうしようと意識しているわけではなく、必要に応じてそういう雰囲気が出るような書き方もしている程度だと思いますが…。もっとも、小説に描かれているのが、どうでもいい人の恋愛だったらつまらないだろうから、基本的に「このふたりは結ばれてほしいな」と読者が思うくらいの魅力は備えた人物にはしたいですよね。たとえば、『マチネの終わりに』の天才ギタリスト・蒔野聡史はかなりカッコよく書きました。半面、ちょっと抜けてるところがあるとか、想い人のジャーナリスト・小峰洋子と顔を合わせると冗談ばかり言っているとか、ギャップも持たせました。ギャップって、こちらが相手と関わっていける「隙」というか、前のめりにさせる何かだと思うんですね。コミュニケーションを重ねる中で、相手の考え方や口グセなどが、自分のそれと混ざり合っていくのが心地よい、もっと溶け合わせたい。そう能動的にさせるものがたぶん「色気」だと思うんです。僕は、がさがさしゃべる人やオーバーアクションの女性と話すのが苦手で、リアクションが薄いくらいの人が好きなんです。話が通じてなくてリアクションがないのは寂しいけれど、わかってもらいながら「ああ、そうね」くらいにうっすら反応してもらうのがいい(笑)。あんまりぐいぐい来られて、こちらが受け身にならざるを得ないような感じは疲れるでしょう。そういう意味では、多少余白というか、こちらが積極的に埋めるべき余白があるぐらいの距離感で感じ取るものが、色気と呼べるものかもしれません。たとえば、過去のありそうな人物がミステリアスで色っぽく見えることがあるのは、余白があるからかもしれません。『ある男』はそういう知られざる部分を埋めていく話で、死んだ夫が別人だったと知った妻から相談を受けた弁護士が、夫の過去を調べていくんです。ただ、深刻すぎる過去は受け止めるのは大変だし、色気とは言えないでしょうね。完全に相手が自己完結してても関係としては難しい。実は小説を読むこともそれとよく似ていて、みんな、そこに描かれていることを、自分の体験や感覚で穴埋めをしながら読んでいるんだと思うんですね。三島由紀夫の小説に『美徳のよろめき』というのがあって、発表当時すごく話題になったんです。セクシュアルな場面も出てくるんですが、あまり細かく露骨な描写があると、読者って引いてしまうんですよ。この作品でも、初めて節子という人妻と土屋という青年が関係を持つ場面とか、ふたりはすごく昂揚しているんだけれど、婉曲に書いてある。自分自身の経験を足してその穴埋めをしなければよくわからないくらいに。その分、読んだ人自身の羞恥心に触れるというか、作者に押し付けられたものではないからドキドキする。つまり、こちらが能動的になるためには、モノでも人でも、多少相手は抑制的な方がいいように思うんです。要するに色気って、おいそれとオープンにできない自分の奥底にあるものを引っ張り出し合う関係にしか生まれない。この人になら開示してもいい、開示できそうだという予感を抱かせてくれるかどうかが重要なんじゃないですかね。僕の経験では、すっきり理知的に話す人は色気があると思うんですが、それはやっぱり知的な人やいろいろ経験している人の方が自分のことも理解してもらえるかもしれないと期待が持てるからでしょうね。自分の思いや悩みを話したときに、静かに受け入れてもらえそうだという安心感ってスマートでしょう。立ち居ふるまいにもそれはにじみ出てくると思います。ひらの・けいいちろう作家。1975年生まれ、愛知県出身。京都大学卒。在学中に文芸誌に掲載された処女作「日蝕」で芥川賞を受賞。『決壊』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、『ある男』で読売文学賞など、受賞歴多数。※『anan』2019年4月3日号より。イラスト・カーリィ取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年03月29日こんにちは。 前回は集めているスノードームのお話をさせていただききましたが、今回は、集めている箱のお話を。 それはずばり、かわいいお菓子の箱です! 時には中身よりパッケージ買いすることもあるくらい、箱が好きです。バレンタインやホワイトデーなどはかわいい箱の祭典なので箱を見るのが楽しみで仕方ありません! まずはこちら。ご存知DEMEL。DEMELは箱選手権トップです(笑) そしてイベントの時などに頂く差し入れのお菓子も箱が可愛いものが多くて、二度楽しんでおります! (来て下さるだけでも嬉しいのに、皆さまお気遣いありがとうございます…涙) こちらもいただいたもの。箱がかわいくて一度喜び、お菓子も美味しくて二度喜びました! 作品で細かい物を扱う事が多いので、集めるだけでなく小物入れとしても使用しています。 ワークショップなどで材料を持ち運ぶ事もあるので、ビーズ入れなどに最適なんです。 まだまだ箱コレクション沢山ありますが今回はこの辺で。 次回は今現在取り組んでいる作品のお話が出来ると思いますので、どうぞお楽しみに!
2019年03月18日こんにちは。作品作りのルーツになるかはわからないのですが、私の趣味や好きな物の事もご紹介していけたらなと思い、今回は集めているスノードームについて熱く語らせていただきたいと思います! 私は小さいものやミニチュア模型などが大好きなので、この小さいドームの中に閉じ込められている世界がたまらないんです…。自分で買ったもの、お土産やプレゼントで頂いたもの…沢山ありますが、中でもお気に入りの何点かをご紹介します! まずは手前の小さいタイプから。 これは雑貨屋さんで購入したのですが、星好きとしては買わない選択肢はありませんでした。(自分の作品にもちょこちょこと星モチーフを取り入れています)コレクションの中で1番小さいサイズのスノードームで、高さ約4cmとミニチュアなとこもツボです! こちらは集めているスノードームの中で1番沢山あるモチーフのエッフェル塔タイプです。雪が舞い散るタイプも多いのですがこのスノードームは青いラメと星のラメが舞い散るんですよ...たまらないですね…動画でご紹介したいくらいです! こちら、サンタのスノードーム。色々な国のサンタバージョンがあったのですがほぼ全て買いました! 久しぶりに見たら底が隆起してきてサンタが傾いていましたが、これも味があっていい感じに思える前向きなコレクターです笑 お土産で頂いたニューヨークのスノードームは土台のデザインもオシャレで気に入っています。いつかは行きたいニューヨーク...スノードームを眺めて行ったつもりになっています。 最後に、一番巨大なシザーハンズのスノードーム!デザインもかっこいいし大切なスノードームです。集合写真でもわかるように手前の4cmのものと比べるとかなりの大きさなので置き場所に困るのが難点です。笑 ごく一部ですが、わたしの大切にしているスノードームコレクション。 またちょこちょこと集めているものなど、紹介していけたらなと思います。
2019年03月05日2018年はどんなテーブルウエアを使いましたか?素敵なご飯の時間を過ごせました?2019年もさらにハッピーな毎日を過ごすべく、こだわりの生活雑貨が揃う鎌倉の雑貨屋さんへ足を運んでみませんか? そこは鎌倉駅の西口を出て、トンネルを一つ抜け、さらに奥へ進んだ静かな住宅街の路地にひっそりと佇む庭付きの1軒の古民家。白い大きな暖簾をくぐって、「お邪魔します」とガラリと扉を開けると、古くからの友人の家へ遊びに来たかのような気持ちになるお店。 「夏椿」は、元々は世田谷の上町で9年前に始まり、2018年の春に鎌倉に移転し、10年目を迎える器やこだわりの雑貨を扱っています。 陶器や磁器などを主に扱うため、庭の木々や花を活けたいという思いで、以前のお店も庭付きのお店だったのだとか。庭ではお花好きの前の家主さんが植えていた四季折々の花が、季節を追うごとに咲いたり、陽のあたり具合の変化で1日の移ろいも感じられるのも、ここならではの魅力。 昭和初期に建てられたのだという家屋は、丁寧に手直しをし、活かせるものは活かしながら、ところどころの窓や門、什器などは以前のお店の建具も使われており、ずっとそこにあったかのように馴染んでいます。 店主である恵藤さんが好きな白いお花が「夏椿」ということからお店の名前がつけられたのだそう。「1日咲き終えるとポトっと落ちる、そんな潔さが素敵だと思うんです。」とにこやかに語る横顔が素敵。 元々、輸入アイテムなどを扱うインテリアショップでの勤務を経て、器と生活道具を扱うお店の立ち上げと運営に携わる中で、「生活に根ざしたところで、生活に根ざすものを売りたい」という想いが生まれ、縁あって自身のお店を持つことになったのだとか。 店内には、ひとつひとつ、丁寧にこだわりを持って作られた作家さんのアイテムが並ぶ。器やガラスの作家さんだけでも20〜30名ほどいるのだというから驚き。ほかにも、洗練されたアクセサリーやニットアイテム、お洋服、ストールなども揃う。 「ユキマロ」のオーガニックコットンやリネン、草木染めなど、彩り豊かな着心地のよいアイテム。 香川のガラス作家、蠣崎マコトさんのサーカスドームや照明、ガラス食器など。 「夏椿」で3年目の展示会を終えたという、ガラス作家・蠣崎マコトさんの作品。「ガラス職人としての確かな技術と、新しいものを生み出せるセンスを持ち合わている作家さん」という紹介のもと、澄んだガラスとフォルムの美しさにうっとり。 “ストンとした感じのワイングラスがほしい”という恵藤さんの要望に応えた初期のグラス(左)。そして、次の展示会ではシャンパングラスが欲しいとお願いして作ったもの(中央)。さらに、「今年は作りたい形を色々作ってアットランダムなアイテムを並べたんです。」と恵藤さん。もう次回作の相談もしているのだとか。来年の展示会も楽しみですね。 「your wear」のカシミヤのニット帽やニット帽の余り糸を使った手袋など。寒い季節に嬉しいあったかアイテム。 色々な作家さんにお願いする中で、お互いにアイディアを出し合って新たな作品を作ってもらうこともしばしば。作家さんと共に商品もお店も一緒に作っているような感覚が、優しい温もりを生み出しているように感じました。 白磁の器を中心に、岐阜県の土岐市で主に作っている器作家の竹下勉さん。繊細でユニークな形の器が人気で、「夏椿」では新しい顔ぶれだとか。今後の作品も楽しみ。 プロフェッショナルと手を組み、今使いたいものをプロデュースするという伊藤環さんのブランド「1+0」より。上質な定番品を提案している。 器の作家さんでありながら、随所にこだわりが現れているお気に入りのワークパンツを自分で企画してしまったという伊藤環さん。 使ううちに艶が出てくるという、まるで青銅のような風合いの“錆び銀彩”や、まるでホーローのように見える“ホーロー釉”を用いた器など。「本当のホーローと間違えて手にとってほしい!」と遊び心ものぞかせる作家さんなんだとか。 美しいアート作品を観るようにうっとりと眺めてしまう、銀彩の陶器。伊藤聡信さん作。 年明けは1/16(水)からのオープン。鎌倉に初詣がてら、新しい年初めにお気に入りの器に会いに出かけてみては。 鎌倉市佐助2-13-15tel:0467-84-8632open:11:00~17:00休:月・火(祝は営業、振替休日あり)アクセス:JR・江ノ電「鎌倉」下車(徒歩15分)natsutsubaki.com illustration&text:ERI KAIFUCHI
2019年01月17日緊縛師の男の他殺死体が発見され、刑事の富樫は動揺する。というのも、重要参考人として名前が挙がったのは、彼が心を寄せていた女性だったのだ――中村文則さんの『その先の道に消える』は、なんとも不穏な出だし。そして物語はあっと驚く方向へと進んでいく。謎めいた女たち、翻弄される刑事。一件の殺人事件の背景にある深淵。出発点はというと、「これまでも精神的なSとMを書いてきましたが、今回はど真ん中でいこうと思い緊縛師について調べたら、ものすごく深い世界が見えてきて」SMの世界で、人間を縄で縛る緊縛師。まずその歴史をひもといた。「古武術に由来し、罪人を早く正確に縄で縛る技術が発達し、女性だけが演じる歌舞伎の折檻の場面でも表現されたそうです。使用される麻縄は、神社の注連縄(しめなわ)にも使われますよね。そこから麻が日本文化に欠かせないものだったと分かり、これは面白い話になるなと思いました」前半で富樫は参考人の桐田麻衣子を庇(かば)おうとするが、ベテラン刑事の葉山は彼の不審な言動を見逃さない。そこから少しずつ被害者周辺の複雑な人間模様が明かされ、中盤、あっと驚く出来事が起きる。「富樫や葉山、他の人物たちもみんな揺れている。人は誰もが生きにくさを抱えている。読むと逆にほっとするという意見も聞きます」麻衣子以外の女性や、悪魔的な男の存在も強烈。愛情と猜疑心、悪と善、過去と現在が交錯する展開のなか、快楽と苦痛も溶け合っていく。「緊縛というと縛る側が縛られる側を痛めつけるイメージがありますが、実は縄師は相手が縛ってもらいたいところを縛っていくという、基本的には奉仕する側。主役は女性なんです。縛られる側の女性に取材もして、縛られることで逆に自分を精神的に、そして性的にも解放できるということを知り、ものすごく深い世界だと感じました。縄の練習もしまして、今では雑誌を資源ゴミに出す時に亀甲縛りとかでまとめられます(笑)」すべてが明かされた時、そこに何が残されるのか。「悪に見えた人間も含め、みんな、ただ精いっぱいそこにいただけだ、と感じます。それが不思議な前向きさを醸し出していますよね。昔の僕だったら、こういう結末は書かなかったような気がします」今の世界を見て今の中村さんが感じることが、ここに反映されている。『その先の道に消える』緊縛師の男が遺体で発見され、少ない手がかりの中から一人の女性の名前が浮上する。その女性・麻衣子に惹かれていた刑事の富樫は、隠蔽を画策するのだが…。朝日新聞出版1400円なかむら・ふみのり作家。1977年生まれ。2002年「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。’05年『土の中の子供』で芥川賞、’10年『掏摸(スリ)』で大江賞受賞。「銃」の映画化作品が公開中。※『anan』2018年12月5日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年11月28日2016年、各国の作家が集まるアイオワ大学のプログラムで、3か月ほど米国に滞在した柴崎友香さん。その体験を短編集にしたのが『公園へ行かないか?火曜日に』。「もちろん初めての体験です。よく状況をつかめないままいろんな出来事が起きるのが面白くて。それを読む人にも体感してもらうために、エッセイではなく小説で書きました」年齢もバックグラウンドも異なる作家たちと、公園まで散歩のつもりが予想外の遠出になったり、住居棟で非常ベルが鳴って避難したり…。「英語ができなくても大丈夫と言われていたんですが、初日に37人の参加者中、私が格段にできないと判明して、どうしようかと思いました(笑)。でも、せっかくの機会だしいろいろ聞きたい気持ちもあって、一緒に行動していました。少しずつ聞き取れるようになったかと思えば、翌日は全然分からなかったりと、波がありましたが、最後のほうの発表で“英語うまくなったね”と言われた時は嬉しかった」自身で撮ったカバーの写真はどれも素敵な環境だと分かるが、「部屋のカードキーが何度も使えなくなるし、自動販売機は壊れっぱなしで。そんな雑な感じが面白かったし、気楽でもありました」と、なんでも楽しめる柴崎さんのおおらかさもたっぷり味わえる。一方、後半ではニューヨークで大統領選挙という大きなイベントに遭遇するが、冷静に見ているのが印象的。「劇的な瞬間に居合わせたとは思いませんでした。私は選挙に参加したわけでもないし、本当に重要なのは、劇的な結果が起こる前の積み重ねだと思うから。むしろ、私はあの場所にいたけれど何も分かっていなかったなということを実感しますね。いい体験ができたとは思っています」ほかにはニューオーリンズの第2次世界大戦博物館で感じたことなどが、真摯に綴られ心に残る。「面白いことはまだまだあって、あと2~3冊は書けます(笑)。プログラムを経て、言葉にしても、生活や空間のスケール感にしても、自分の中の基準がちょっと変わった気がしますね。さんざん英語ができないことなどを晒していますが(笑)、自分も何か新しいことをやろうとか、めげずに頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいです」『公園へ行かないか?火曜日に』33か国から作家たちが集まってきた、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した体験をつづる11編の小説集。新潮社1700円しばさき・ともか作家。1973年生まれ。著書に芥川賞受賞作『春の庭』(文春文庫)など。2010年に野間文芸新人賞を受賞した『寝ても覚めても』原作の映画が公開に。※『anan』2018年9月19日号より。写真・土佐麻理子(柴崎さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年09月13日1万人以上のアーティストが参加!全てを見るならベストは両日の参加インターナショナルアートイベント”真夏のデザインフェスタ”ブースエリアをピックアップオリジナル作品であれば誰でもアーティストとして参加できるのが魅力のデザフェス。ただしブース数があまりに多いので、全てのブースを見逃したくないなら土日ペア券がおすすめ。今回は数あるブースの中からピックアップしてご紹介します。【陶芸・焼き物】ピックアップブース陶芸工房 ラ・プエルタスペインへ陶芸留学経験がある作家さん。スペインの焼き物は京焼きに似ていて、よく間違われるそう。彼岸花やコスモスなど焼き物には珍しい日本の野の花をモチーフにしているので、デザインは他の誰ともかぶりません。留学経験を活かしたマジョリカ焼きのタイルも作っています。HP::www.instagram.com/zuimonjp/a16ny(アイロニー)制作者は多摩美術大学の陶芸学科に通う4年生。食パン型のお皿など、この日は焼き物とアクセサリーを出品していました。普段の作風を伺うと「花をモチーフとした具象や勢いのあるものを作っている」と、なんとも美大生らしい答えが。ふんわりとした掴み所のないキャラクターも彼女の個性。ぜひ多摩美祭で会いに行ってほしい作家さんです。Instagram:@a16ry【アクセサリー】ピックアップブースzoomie(ズーミー)「品のあるかわいい大人」をテーマに石塑粘土という素材で動物や植物をモチーフにしたアクセサリーを制作。会社に勤めながら作品づくりをしているため、週末はマルシェ、平日は出勤と二足のわらじで頑張るアーティスト。粘土に一つひとつ顔を描いていくため、同じ種類の動物でも表情が少しずつ違います。世界にたった一つのオリジナル。Instagram:zoomie_mzhSURREAL(サーリアル)こちらのオシャレな作家さんが作る作品は、暗いところで光る目玉焼きのアクセサリーにフェルトでできたファンキーなブローチ。カラフルでインパクトがあるのに、オトナ女子でも使えるアイテムが並びます。自然と顔がほころぶ可愛さに、ついつい手が伸びて買ってしまうことでしょう。存在感があるのでどこにつけても個性的なアクセントに。Instagram:anamoto_aya【洋服】ピックアップブースKMT NUMBER新規ブランドの「KMT NUMBER」。絞りのある袖が個性的でドレッシーな印象のオフホワイトのオーバーシャツは、デザフェス来場者のなかでも感度の高いお客さんが購入していました。この日は残念ながらデザイナーは来ていませんでしたが、洗練されたブースには(写真左から)ブランド代表・広報・イメージモデルの3名がPR。maring(マリング) 折り紙の「奴さん」から着想を得てデザインされたトップスや風車のモチーフがついたパンツなど、見て楽しい、身につけて楽しい洋服や服飾雑貨を販売しているmaring。プリント柄の洋服や雑貨はテーマがとっても可愛くて「お誕生日会のおやつにつられてアリがやって来たところ」を表現しているそう。Instagram:www.instagram.com/m_aring【動物モチーフ】ピックアップブースにゃんことみーこ気になって近づいてしまったにゃんことみーこ®️。年齢5さいの”にゃんこ”と2さいの”みーこ”がほのぼのと愛らしい。スタッフ用のワッペンもにゃんことみーこ®️というこだわり。スタッフさんがつけているおにぎりピアスも可愛くてつい見てしまいます。作り手のファッションにも注目したいのがデザフェス!HP:www.nyanco-mico.comInstagram:aico0109ほもさぴえんす(飯田晴夏) 「昔から好きだった」という無類の類人猿好き。猿やゴリラをはじめ、猿人系の生き物をモチーフに制作活動を行なっている九州の作家さん。同じく九州で活動している友人と一緒にブース出店。(ちなみに友人は七宝焼きのアクセサリーを作っているアーティストで作風は全く違います。)8月20日から福岡市で作品展「ひとでなし」を開催。 Twitter:@sarunobori飯田晴夏作品展「ひとでなし」【雑貨】ピックアップブース豆本ドールハウスこんな小さい本はじめて見ました、というくらい小さいです。小さすぎて感動します。「何か作りたくて趣味ではじめた」という豆本制作。今は豆本作家としてものづくりを行う日々。どんなに小さくても細かいところまでしっかりと世界観が表現されているので、小さい可愛いものが好きな人にはたまらない作品。自分で作れるキットもあります。AROMA POT雪だるまみたいなこの子たちは”シロケム”と言います。とってもコンパクトなディフューザーです。ヒノキから作られる丸いフォルムは木目がぞれぞれ違うだけでなく、顔も一つひとつ手書きしているのでどの子を連れて帰ろうか迷ってしまうでしょう。アロマ瓶の大きさで作られた麦わら帽子は、アロマポット使用中には小瓶に、ポットを使っていないときはシロケムに。HP:www.shirokemu.comInstagram:shirokemu【注目!】ピックアップブースYu-shan 手作金工台湾から参加のアーティスト・呂浴珊(Lu Yu Shan)さん。真鍮で作ったブローチやオブジェなど、上品な雰囲気の作品を出品していました。日本には1週間ほど滞在予定で、そのうちの2日間でデザフェスに参加。今回友人アーティストの作品も一緒に出品していましたが、来日は一人で。「さみしい!」と言っていましたが会場では友人も出来たそう。Instagram:yushan_metalartやいたひろし じっと見つめずにはいられない見事なリーゼント。自分自身を”モチーフ”として作品制作を行うやいた ひろしさん。ゾンビもリーゼント、骸骨もリーゼント。1回300円というリーゼント価格のおみくじで運試しをしたところ、「吉(よし)」を引き当てA賞が当たりました。リーゼントキーホルダーゲットです。3Dプリンターで自分の顔を取り込んでいるので、なかなかのリアル感。遊び心いっぱいの作家さんです。(※デザフェスにはペインター2人と参加)Instagram:@yaitahiroshiまだまだブースは見きれない!ゆるさがクセになる。脱力系アーティストの「岩山 肌夫」ディフューザーで使用する木の枝を使ってモビール作品を制作する「HIROIN i LAND」本物そっくりのミニチュアサンプルをキーホルダーにした「音波屋(おとなみや)」1日中遊ぶとお腹も減る!フェスグルメも堪能したいデザフェス限定のフードコート&カフェフェスと言えば限定グルメも楽しみの一つ。広い会場内を歩いて疲れたら、フードコート&カフェで一休み。がっつり系からスイーツまで、同じ会場内でいろいろ食べ比べができるのもフェスならでは。ムンバイエクスプレス九段下に本店がある「ムンバイエクスプレス」。デザフェス限定メニューのマンゴーカレーをパラタでいただきます。カレーのベースにスパイスがしっかり使われているからこそ、マンゴーのまろやかさと甘さが際立つ味わい。南国感のある夏らしいカレーです。パラタはいわば「インド風のクロワッサン」。全粒粉の記事にバターを練りこんでミルフィーユのように重ねて焼いたもの。ナンよりも薄くもっちりとした食感ですが、全粒粉の風味にバターのコクが合わさって、甘いカレーによく合います。かき氷を注文する人多数!夏と言えばかき氷。会場内でもかき氷を持って歩く来場者があちこちに。キッチンカーを見て回ると、人気があるのは”マンゴー味”のようです。たっぷりのシロップにホイップクリームがのったスイーツ風。今年の「真夏のデザフェス」はマンゴー限定商品が多数ラインアップ。Randy-zizi 愛知県の手作りシフォンケーキ専門店「Randy-zizi」。なんとこちらでもデザフェス限定味はマンゴー!これはもうマンゴー祭です。シフォンケーキは冷蔵庫で3日ほどは日持ちしますが、風船のように軽くてふわふわの食感を楽しんで欲しいから、買ったその日に食べるのがおすすめ。限定マンゴー味は、ドライマンゴーではなく生のマンゴーが混ざっているので、果肉が柔らかくフルーツ感を味わうことができます。軽い食感のなかにまろやかに溶け込むマンゴーがちょうど良いアクセントになって本当に美味しい!デザフェスは2日間とも行きたい!どのアーティストの作品も可愛くて、際限なく買ってしまいそうな気持ちをぐっと堪え「a16ny(アイロニー)」のブースへ引き返します。実は「Butter Toast」というチームでシナリオを担当しているので、パン型のデザインが気になる今日この頃。トーストが一枚、ぴったり入る大きさ。バターをのせるとこんなかんじです。なんだか嬉しくなって、朝から一人でニヤニヤしてしまいそう。HPでは出店アーティストが一部事前に発表されるので、お目当のブースをチェックしてから参加すると効率よく回ることができます。また、当日気になったお店で「後でもう一回来よう」と思ったブースがあれば、必ず床に貼ってあるブースナンバーを控えておきましょう。さっきのブースに戻りたかったのに「場所がわからなくなってしまった!」ということがなくなります。ブースナンバーが書かれた会場マップがもらえるので、引き返すときには参考にしてみてください。次回開催は秋。開催日程:2018年11月10日(土)・11日(日)東京ビックサイト 西ホール全館 11:00〜19:00夏より大規模で開催される秋のデザフェス、参戦必至です!informationインターナショナルイベント 真夏のデザインフェスタ 2018日時:2018年8月4日(土)~8月5日(日) 11:00~19:00場所:東京ビックサイト 東4・5・6ホールHP: www.designfesta.comチケット:(1日券)前売り券 800円/当日券 1,000円(土日ペア券)前売り券 1,500円/当日券 1,800円
2018年09月03日初老に差しかかった個性派俳優・海馬五郎は、フランスの一風変わった文化賞の授賞式に出席するため、パリ行きを決意。それがトホホな道行きになっていく松尾スズキさんの『もう「はい」としか言えない』。同じく海馬五郎の語りで、幼少時より自意識でがんじがらめになっていた自らの生い立ちをたどる「神様ノイローゼ」。松尾ワールドにどっぷり浸る快感!“本人成分たっぷり”の2編を収録。読み進めるうちに、じわじわ気づくはずだ。「これ、かなり私小説的なんじゃ?」。松尾スズキさんも「僕の分身みたいな存在」と認める海馬五郎を主人公に据えた2編をカップリング。最新刊『もう「はい」としか言えない』が面白いのなんの。「『少年水死体事件』と名づけて新聞連載していた随筆にフィクションを加味して書き直したのが『神様ノイローゼ』。自意識と妄想でこんがらがっていた子ども時代の自分の話です。いままでインタビューなどでもしゃべってきたことなんですが、一度体系づけてまとめておこうと思ったんですね。もうこれを読んで、わかってくれと。僕という人間のマニュアルです」末恐ろしいほどシニカルで、冷めた思考の五郎少年。子どもが苦手だという松尾さんだが、作中に見る、あんな記憶があればさもありなん。「あいつらは自由にやってるくせに、いざ攻撃されると子どもという鎧に逃げ込むんですよ。僕もそういうガキでした(笑)」表題作もまた、松尾さんに起きた実際のエピソードや、周囲から聞いたリアルな悩みを投入してできた作品だという。道に迷いやすいという五郎のキャラもご本人と同じらしい。「でも迷ってる時間って自由だなと思うんですね。自分がどこにいるのかもわからずさまよえば、誰にも捕まえられない。究極の自由でしょう。僕が表現をやっているのも、結局は自由になりたいからだと思います。現実に対して感じている違和感を笑いに変えて、既成の価値観から逃れたい。僕の小説はドタバタしていると評されることが多いけれど、僕の中ではそれがリアルなので、そう言われるのは心外なんですよ」息苦しいルールを押し付けられていた五郎は逡巡の末、自由欲しさに、通訳を同行させるならと苦手な外国行きを承諾。しかし通訳となる斎藤聖の紹介者が、彼を〈少し新しいタイプの人間〉と説明していたわけを、五郎は行く先々で味わうことになる。「日仏ハーフの聖君が出てきた途端に、五郎がこの子によってもっと混乱に陥れられることがわかって、話に弾みがついてしまいました(笑)」自由に焦がれに焦がれた先で五郎を待っていた事態を見届けてほしい。『もう「はい」としか言えない』 妻に浮気がバレた海馬五郎。離婚回避のための誓約に汲々としていた彼は、わらにもすがる気持ちで「エドゥアール・クレスト賞」の授賞式へ旅立つ。表題作が3度めの芥川賞ノミネートとなる。文藝春秋1450円まつお・すずき1962年生まれ、福岡県出身。今年、旗揚げから30周年を迎えた「大人計画」主宰。12/18~SPIRALで「30祭」開催。作家、演出家、俳優、映画監督とマルチに活躍。※『anan』2018年9月5日号より。写真・土佐麻理子(松尾さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年09月02日さまざまな独創的な料理とその美しさで話題沸騰のレストラン、デンマークの「noma(ノーマ)」。日本でも数年前に限定オープンしたので、ファンも多い人気のレストランの一つですね。その「noma」で使われている独特の風合いの食器を作っている親子がいます。 デンマークの郊外にあるAageとKasper Wurtzという親子の陶磁器作家が営むポーセリンスタジオが『Wurtz Form』です。昔ながらのクラフトワークで作られ、伝統的な風合いでありながら、非常にモダンなデザインが人気の秘密であり、二つと同じ物がうまれないクラフト的な作品も人気の理由です。この『Wurtz Form』からなにやら「どんぶり」が生まれたというのです! 確かに形を見るとどんぶり!?残念ながら専用の蓋はないですが、大きさ、形状はどんぶりそのもの。デンマークには日本の文化が根付いていたのか?と思うほどですが、現地ではボウルとして使われているようです。 実際日本で使うとしたら、お料理では煮物やサラダはもちろん合いますし、スープボウルとしても良さそう。そしてもちろんどんぶりとしても使えそうです。また、水を入れてフラワーベースにしてもいいですね。 石を削り取って作られたストーンウェアの様な風合いは、落ち着いた色合いなので他のキッチンウェアとの相性もよく、これだけでも絵になる雰囲気を感じます。ヨーロッパでも人気の器、ちょっと面白いサイズを見つけました。 BOWLARIGATO GIVING
2018年07月23日最近ペルルでは、さまざまなワークショップやものづくりをテーマにしたフェスなど、創作意欲が湧いてきそうなイベントの取材リポートが気分です。管理人の私は昨年2日で4万人以上もの来場者数を誇る松本クラフトフェアに潜入し、パトロールしてきました!ハンドメイド系の媒体などでのリポート記事も多く見かけるので、むしろ若干後発気味の取材紀はいかがなものか、、とも思いましたが、スナップをさせて頂いた方々でも「今回初です!」という関西からの来場者もまだまだいたので、行ったことのある方もない方もフレッシュな気持ちでものづくりの街、松本の雰囲気をほんの少しこの記事で味わってみてくださいませ。とは、言ったものの、私が住んでいる東京から松本は車で順調に行っても3時間以上。日本の週末の道路事情はみなさんご存知の通り。結局4時間かけて松本市内にたどり着きました。ただ日本の旅には渋滞はつきもの。市内までは以外と早く感じてしまったほどでした。また、当日は、草間彌生さんの展示イベントも開催中だったため、草間さん目当てのお客さんも多く、その日の松本は街全体がなんだかお祭り気分な雰囲気。そんな空気感も後押しされ、「アートな街、ものづくりの街、松本」そんな街にいることがちょっと心地よく感じました。松本市内に着くと至るところに松本クラフトフェアの看板が目につき、いよいよ念願の場所に行けるー!と興奮しましたが、市内ももちろん、クラフトフェアに行く人々で渋滞中。。もう目と鼻の先なのに!ワクワクしながら焦る気持ちを抑えてハンドルを握り続け。。そして。。 やっと会場となる「あがたの森公園」に到着!おなじみのブルーのクラフトフェアの看板会いたかったー!このクラフトフェアの看板。全国各地からお客さんが集まり凄い賑わいです。真夏のように暑い日でしたが、緑が多く、川も流れるこのクラフトフェアの会場は、ちょっとしたオアシス的な印象を受けました。会場に入るとインフォメーションがあります。1日では周りきれないほどのブース出展数を誇るこちらのフェアなので、マップをもらおうとすると、「すみません!マップがもうなくなってしまったんです。。」と告げられ。。初日のamでマップが無くなるほど人気のイベント、おそるべし。なるほど。では、道なりにぐるーっとひと通り回るか! pick up booth①まず目の前に飛び込んできたのは??和グッズな「OPEN STUDIO」のブースミニ箒とカラフルなちりとり レトロな雰囲気と1点1点、趣の異なる世界にひとつだけのアイテムです。使い込んでいくうちに自分の色が出てきそうな逸品。 あまりにもブースの数があったので。。ワンブース見たところで、、ちょっとだけ腹ごしらえを。。 pick up booth②一際目立つ長蛇の列に参戦したのはソーダ割りジュースが人気のお店「Chipakoya」フレッシュなフルーツをソーダと一緒に 店頭には、ジンジャーシロップや様々な種類のジャムが並べられています。 購入したのは、ニューサマーオレンジ(右)とストロベリーソーダ(左)。 スコーンとお菓子と一緒にいただきました。ソーダとフルーツのフレッシュさが暑さを吹き飛ばすほどの美味しさでした。自然と全国選りすぐりの作家さんの名作で溢れているこの「あがたの森」で飲むからさらにその美味しく感じるのかも。 当日は本当に暑くて、しょっぱいものが食べたくなったので、覗いてみたおにぎり屋さん「Kajiya」さんはお昼にはもう完売してました。。食べたかったのですが、、残念。。 pick up booth③その代わりではないのですが、向かいに「Chipakoya」さんばりにお客さんが並んでいた梅干し屋さんでいろんな味の梅干しを試食。 購入したカツオ梅干し。 蜂蜜の甘さとカツオの和風テイストが程よく絡み合って美味でした! 小腹も満たしたところで、ブース巡りに再出発! pick up booth④こちらは「カトラリーmorita emi」さんのお店持ち手の部分の細さが絶妙なスプーンやフォークなど。綺麗なゴールドカラーのテーブルウエアが印象的。 pick up booth⑤こちらは「くにさきかたち工房」の食器類が並ぶブース 温かみのあるキッチンツールや食器、カップが並びます。こんなカップでコーヒー飲みたい!素敵なお皿でご飯を食べたらどんなに心地いいんだろう。。自分で作った簡単なサラダですらお店で食べる味になりそう?!妄想力は育まれます。 pick up booth⑥凛とした美しさがある「木本紗綾香」さんの陶芸作品 繊細でいて力強さも感じさせる1点1点表情が異なる陶器は、大切に使いたくなる代物です。 pick up booth⑥木のぬくもりを感じるお箸やカッティングボードのテーブルウエア 使うほどに愛着がわきそうなテーブルウエア、キッチンツール。経年変化を楽しみたいアイテムです。 『松本クラフトフェア』では、作家さんのブースはもちろん、それらを全国から見に来る来場者さんのファッションにもフォーカスしてみました。が、こちらの記事内では書ききれないので、松本クラフトフェアの続編〜スナップ編〜もぜひチェックしてみてください。
2018年06月27日岡山県倉敷市にある高蔵寺の僧侶・天野こうゆうさんは、アーティストを名乗る一風変わったお坊さん。地元FM局でパーソナリティも務めるほか、仏画を描くなど多彩な活動をしています。ひとつずつ手作りするかわいらしい仏様の人形やイラストは、いまや地元・倉敷の土産物店や東京・谷根千の雑貨店などにも置かれ、じわじわとファンを増やしています。最近では〔倉敷坊さん玩具工房〕を立ち上げてかわいい縁起物を作っていると聞き、作品が生まれる現場を拝見しに境内の工房を訪ねました。《土ほとけ》誕生のきっかけは寺子屋で学ぶ子ども向けの人形天野さんが最初に作ったのは、手のひらにすっぽり収まる小さな土の仏様《土ぼとけ》でした。住職を務める高蔵寺では寺子屋を開き、地域の子どもたちの勉強の場となっていました。ところが小さな子どもたちが40人ほど集まると、ワイワイガヤガヤと賑やかになってしまいます。「どうしたら静かにさせられるだろう」と考え、作ったのがこの仏様だったのです。子どもたちにこの土ほとけを掌に挟んで拝ませたところ、自分の手の中に仏様がみえるのが不思議だったのか立ちどころに静かになったといいます。なかには気に入ってしまい家に持って帰る子もいたとか。そうして子どもたちが家に持ち帰った土ほとけは、おばあちゃんが御守袋に入れて大切に持ち歩いていたりと徐々に広まっていったのです。〔倉敷坊さん玩具工房〕がつくるポップでかわいい縁起物その昔、神社やお寺では縁起物を手作りしていて、授与品として参拝者にとても人気がありました。縁起物とは、厄を除けて福を招くもののこと。今ではそうした手作りの縁起物を扱う社寺の数がだんだんと減ってきてしまいましたが、天野さんは縁起物の制作を〔倉敷坊さん玩具工房〕の名前でスタートしました。一躍脚光を浴びたのは東日本大震災のときのこと。ある日、天野さんの元に余震でノイローゼになってしまった人から相談がきました。そこで仏画を送り、毎日般若心経をあげることを勧めたところ、以前のように余震に心を悩ますことがなくなったといいます。「地震の揺れは僕にはどうにもしてあげられないけど、心の揺れを止めることならできるかもしれない」と考え、ナマズの尾をつかんで組みしだいた地震除けの仏様を作ったところ、ニュースに取り上げられるようになり、多くの人が買い求めました。「日々仏様に手を合わせることで心のもちかたを変えてもらいたい。そのための心の御守なんです」と天野さんは語ります。工房で作られる人形はお坊さんや雛人形、達磨、妖怪などさまざま。土をこねて型取り、一体一体を手作業で彩色しています。仏様やお坊さんの人形、というとなんだか部屋に飾るには敷居が高いイメージですが、天野さんの作る作品はこんなにポップでユニークなものばかり。お盆の精霊馬に乗った《精霊衆》も人気のシリーズ。このほか妖怪モノは、谷中の雑貨店では入荷してもすぐに売り切れてしまうほどの人気だとか。《旅する坊さん》という名前のシリーズでは、飄々としたお顔のお坊さんのお人形がカラフルな袈裟をまとい、動物にまたがったりと見ているだけでにっこり笑顔になってしまいそうなものがいっぱいです。「身近な祈りの形として、気軽にインテリアで楽しんでもらえたら」とのこと。クリスマスやひな祭りなど、四季の祭礼に合わせた人形も「お坊さんが手作りしたものだから有り難い」と買っていく人が多いとか。「持っていると心が落ち着く」という声も少なくありません。注文を受けた人形は、箱にも気持ちを込めて手書きで仏様のイラストを添えて送り出しているのが印象的でした。ストレスでイライラしがちな人や、思い悩むことがある人はインテリアやデスクのデコレーションとしてかわいい土ほとけを置いて、眺めてニッコリしてみてはいかが?※天野こうゆうの作品は、お仏壇のはせがわ銀座本店ギャラリーで購入できます●ライター大浦春堂社寺ライター、編集者。日本国内やアジアを旅しながら雑誌やWEBマガジンへ社寺参りに関する記事の寄稿を行う。著書に『御朱印と御朱印帳で旅する全国の神社とお寺』(マイナビ出版)のほか、『神様と暮らすお作法(協力:三峯神社)』(彩図社)、『神様が宿るお神酒』(神宮館)などがある。
2018年06月17日伊藤丈浩さんによる作品。色、柄、フォルムが美しいポットやカップ&ソーサー。 巧みな職人技術で魅せる、現代を代表するスリップウェア/伊藤丈浩さん それまで“柄もの”があまり得意ではなく、うつわは無地のシンプルなものばかりを選んできた筆者が、初めて柄ものに惹かれたのが、伊藤さんの作品でした。英国発祥の伝統的な技法である「スリップウェア」という言葉を知ったのも、伊藤さんの作品がきっかけでした。 独学でスリップウェアを習得したという伊藤さんは、2006年に益子で独立。以来その人気は拡大し、全国各地で個展を開催するまでに。 繊細で緻密、時にダイナミックな模様が描かれた作品は、いつまででも眺めていられる“美術品”と言っても過言ではありません。それはまるでテキスタイルのようでもあり、高度な職人技術に唸らされます。そして伝統技法を用いながらも、古臭さをまったく感じず、とても現代的な空気をまとっています。うつわに料理を盛り付ければ、一皿がぐっと格上げされ、食卓が華やぎます。スリップウェアに限らず、マグカップやピッチャーなどはフォルムも美しいので、植物を生けたり、ただ飾っておいたりするだけでもインテリアとして楽しめます。 陶器市では「G+OO」での取り扱いがメイン。常設もされているので、陶器市以外の機会にも出会うことができます。 端正で凛々しい、洗練された佇まいに心酔/田代倫章さん いわゆる“益子焼らしい”、素朴な雰囲気のうつわばかりを所有していた筆者にとって、田代さんの作品との出会いは一目惚れでした。例えるなら、それまで好みのタイプが一貫していたはずなのに、全然違ったタイプの人に出会って恋に落ちてしまった、といったところ。 2002年に大学の陶芸専攻科を卒業後、益子にて今成誠一氏に師事。2007年に独立された田代さん。これまで毎年のように都内と益子を中心に展示を開催している人気作家の一人です。 作品から漂うオーラには品があり、無駄を削ぎ落とした洗練された佇まいは「凛々しい」という言葉がしっくりきます。一見シャープながらも、曲線の一つひとつが優美で、質感にもそれぞれ繊細な技法が駆使されているのがわかり、柔らかな表情も持ち合わせています。マットと艶のコンビネーションも絶妙で、すべての作品にどこか色気を感じます。基本は白と黒のモノトーン展開というのも潔くてかっこいい。 食器として使うのを躊躇ってしまうほど美しいのですが、料理を盛り付けるとまるで高級料亭の一皿かと思えてしまうほど、見栄えがランクアップします。 陶器市では「組合広場」の道を挟んで向かい側(共販センター近く)に出店しています。 木のぬくもりと丁寧な手仕事が、日常を豊かにしてくれる/木工房玄 益子の陶器市では多数の木工作家が出店しています。その中でも、ここ何年も隅々まで陶器市を巡ってきた筆者のお気に入りが「木工房 玄」の作品です。 代表の高塚和則さん率いる「木工房 玄」は、栃木県塩谷郡塩屋町に工房を構え、手作業で家具や食器、小物などを製作しています。原木を仕入れ、製材、自然乾燥させ、プロダクトごとに適した木を選び、一つひとつ丁寧に作っています。使用している木材は主にクルミ、栗、桜、ナラ、トチ、タモなど国産の広葉樹。仕上げには木の風合いを生かすよう、天然のオイルを使っています。時が経つほどになじみ、風合いの良さが出てくるのも無垢材ならではの良さです。 筆者も愛用している、表面に手彫りで細かい凹凸の表情をつけたクルミのカッティングボードは見た目も素敵で、使い勝手も抜群です。凹凸のない裏面で食材をカットでき、パン皿としてや、ワンプレート皿として、おもてなしにチーズや前菜を少しずつ盛りつけたりと、大活躍。ほかに花形のコースターやパン皿、オーバル皿も人気のようです。 また製品の取り扱い方やお手入れ法についても親切に教えてくださるので、気軽に相談できます。 陶器市では「遺跡広場」に出店しています。 ナチュラルな色と気泡がノスタルジックな再生ガラス/伊藤亜木さん 陶器にハマると自然とガラスにも惹かれるもので、その第一歩として初めて購入した作家ものが伊藤亜木さんのガラスでした。東京生まれの伊藤さんは、某ファクトリーにて吹きガラスを始めた後、硝子会社に入社。その後2006年に栃木県茂木町にガラスの窯を構え現在に至ります。 再生ガラスを用いた作品の特長のひとつは、優しく自然な色合い。水色のものは窓ガラスから、透明のものは蛍光管から作られているそうです。もうひとつの特長は、気泡。ガラスの中にキラキラと現れる大小のつぶつぶがなんとも涼しげで、ソーダ水を思わせます。 また、ぽてっとした厚みと丸みも可愛らしく、再生ガラスならではのナチュラルな雰囲気と相まって味わいが増します。 ラインナップはグラスをはじめ、お皿、フラワーベース、箸置き、ポット、アクセサリーなど、バラエティ豊か。特にこれからの暑いシーズンには、ガラスのうつわと箸置きを食卓に並べれば、たちまち夏らしく涼しい雰囲気に。こんな風に季節に応じて食卓も衣替えすると、日々の暮らしがより楽しく、豊かに感じられます。 陶器市では「KENMOKUテント村」に出店しています。 以上、益子春の陶器市レポート【作家編】パート2でした。すてきな作家さんが多すぎてここで紹介しきれないのが心苦しいですが、いつかまた別の機会に紹介できればと思っています。春の陶器市は閉幕しましたが、次は秋の陶器市(11月2日〜11月5日)が待っています!このレポートを参考に、ぜひ益子へ訪れてみてください。 text : Yu Konisho
2018年06月14日芥川賞作家の小山田浩子さんが、待望の新作を上梓。「自分の好きなものが詰まった一冊になったので、嬉しいです」と語るのは、2014年に「穴」で芥川賞を受賞した小山田浩子さん。待望の新作『庭』は、ユーモラスで奇妙、鮮やかでちょっぴり不穏な15篇が詰まった短篇集。「どれも結婚や子ども、出産といったテーマを意識していたのは間違いないです。それ以外に、読み返すと自分の実家や田舎に行く、という話が多くて。それはもうフェティッシュ的に好きなのかも(笑)」たとえば巻頭の「うらぎゅう」は、実家に戻り、祖父に不思議な儀式に連れていかれる女性の話。「これは砂灸という、砂に足形をつけてそこにお灸をするという風習を聞いて“何それ”と思ったことがきっかけでした。ここに出てくる話はどれも、そんなふうに見聞きしたり経験したりしたことが元になっていることが多いですね」祖母が彼岸花を薬草として育てていた記憶、住んでいるアパートに出るヤモリ、山の旅館に行ったら愛想のいい猟犬がいた思い出、女子校時代に校舎によく出現した小さな蟹、ショッピングモールのフードコーナーにいるさまざまな家族……。そんな現実の光景から、とんでもない非日常的展開を導き出すのが小山田作品の魅力だが、「普通のことを書いていたらこうなった、という感覚です。自分に何かを空想して物語を広げる能力があるとは思わないんです。ただ、見聞きしたことの前後を、見たことがあるかもしれない気持ちで、思い出すように書いています」動物や植物が多数出てくるのは、「じっと考えているより、虫や植物をずっと見ていた時のほうが、面白いことがたくさん出てくるんですよね。それも、実際に眺めるのでなく、どんな感じだったか思い出しながら書いている感じです」ちょっぴり不条理な世界で生きる人々が描かれる本作。夫婦や親子の気持ちの齟齬も淡々と描かれるが、「家族でも分かり合えないことや、しっくりこないことはありますよね。でもそれは悪いことじゃない。それでやってきたし、やっていくんだ、というのが気持ちとしてあります」暮らしと不可思議な世界のあわいに潜む、人生の真実を垣間見せてくれる。そんな作品集なのである。『庭』庭の彼岸花、窓のヤモリ、井戸にいるどじょう……。草花や生き物に囲まれた、ちょっぴり不条理な世界の人々の日常をとらえた短篇集。新潮社1700円おやまだ・ひろこ作家。1983年、広島県生まれ。2010年、中篇「工場」で新潮新人賞を受賞して作家デビュー。’13年、作品集『工場』で織田作之助賞、’14年「穴」で芥川賞を受賞した。※『anan』2018年4月25日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・瀧井朝世
2018年04月24日ー 女性ならではの繊細な感性で、様々な美しいプロダクトを生み出す女性クリエイターたち。連載【Creation by Ladies】では、そんな彼女たちの作品...そしてその作品に込められた想いや背景を紹介していきます。 ——————————————— 第二回目は、イラストレーターの岡崎マリーさん。 柔らかなタッチと優しいカラーリングで描かれる、花や空、そして女の子のイラスト。どこか懐かしさを感じる、イラストレーター 岡崎マリーさんの作品たち。 現在ルミネエストのキャンペーン広告のデザインや個展の開催、オリジナルのプロダクトの製作など、活躍の場を広げる彼女。そんな彼女はこう語る。 — 「子どもの頃から描き続けてきた『女の子』が土台になっています。4歳の頃の手作り絵本、小学校の頃に友達と作っていた『りぼん』的な雑誌や付録、中高の頃の友達との手紙交換の絵やひたすらお互いの妄想を描く交換絵日記など。その時々にやりたいことを夢中でやっていましたが、思えばほとんどのモチーフは『女の子』でした。今自分に起きている事を表現するのが私の中で一番自然な方法なので、絵のほとんどは実体験から生まれるものが多いです。」 ー 「『窓を拭くように、空を拭いてみる。そうすると自分の見たいものが見られる。』そんなイメージがふっと浮かんできました。いつも、どちらかというとネガディヴなところから脱出するというか、そこから自分で変えていくことが「生きてるな」と感じます。意味もなく憂鬱になったり、ちょっとしたことで一喜一憂したり、コロコロ気分が変わったり、自分をコントロールするのは本当に大変だな、と日々思っていて、でもこれは女の人特有なものなのかな?と思ったときに、それに対して何か特別な魅力を感じました。」 『True Colors』ー 「これを描いていた頃、もう何年も前になりますが、恋愛で、もう本当に髪の毛からも気持ちが溢れちゃうようなイメージがあって…笑。一度イメージが浮かぶと、そのイメージを次の日も保っていられるかが不安で、その日のうちに『描き留める』感覚で描いています。絵を描いて客観的に自分は今こうなんだな、と見ることもあります。」 ー 「2014年に友人が制作したZINE用に描きおろした挿絵です。シェアハウスで自由に暮らす女の子たちがテーマのZINEだったので、人と人とが交差する感じとかじんわり溶け合う感じを意識して描いていた記憶があります。この頃からラメを使いだし、スキャンで出来る光り具合とか印刷したときの変化などを楽しんでいました。」 『Tough swimmer』 ー 「2017年の秋に描いた作品で、その時、本当は出来るのに、何縮こまってるの?という自分へのある思いがあり、水面ギリギリのところで出ようとしている女の子を描きました。いつも思う事ですが、『私はこうだから、きっと無理かな』と自分の範囲を勝手に決めてしまって、実際やってみたら出来たりして、『あれ?なんだ出来るじゃん』みたいなことがあります。自分の知らない自分はたくさんいて、何か挑戦する事でそれが発見出来るから、飛び出そう、という気持ちを込めた作品です。」 『WARM BIG COAT』 ー 「先にイメージがあったわけではなく、ちょっとしたラクガキ感覚で描きました。ふとしたときに描いた絵に、新たな発見があったりします。出来上がってから『なんかコートみたいだなぁ』というゆるい感じで、こういうのが制作の合間の気持ちのリセットになったりします。」 『Drama』 ー 「“モノクロにチラっと色”が昔から好きで、これは2014年の冬の作品ですが、今もモノクロシリーズは続けています。この絵は珍しく文字を入れたくなり、少しストーリー仕立てです。観る人がそれぞれのストーリーを想像してくれたらなと思います。」 『with my favori.』 ー 「ハンドメイドアクセサリーブランドのイベントのキービジュアルを制作したときの作品です。(noodさん、sAnさん)イベントのテーマは『Parfum et Fleur(香りとお花)』ブランドのイメージから、可愛くなりすぎず、でも大人すぎず、というところを目指しました。依頼されて描く事は、何を気に入って頼んでくださったのかということを考えるので、自分の特性を再認識することでもあります。依頼してくださった方の要素と、自分の個性とのバランスは本当にいつも難しく、葛藤するポイントですが、仕上がってみると、一人では描けなかったものに仕上がる。それがいつも面白いです。」 『cherish each day』 ー 「これは2016年の春に熊本地震があったときに描いた作品です。何かが起こったときにSNSでこういった発信をすることはあまりなかったのですが、インスタグラムのフォロワーが増えてきて、たまにコメント等で『絵を見ると元気になる』とか『いつも楽しみにしています』というコメントをいただくようになって、この小さな部屋で籠って描いてる絵で、どこかで誰かがそんなふうに思ってくれてることがなんてすごいことなんだろうと思いました。微力でも、もしかしたら誰かが少し元気になってくれるかも、という思いで描いてすぐにアップしました。私が好きなアーティストの作品を見てパワーがみなぎるように、やっぱりアートってこういう時のためにあるのかな?と思ったりもします。」 『KIMAGURE GIRL』 ー 「今年1月の個展のメインに選んだ作品です。描きながら色を考える絵もありますが、この作品は色からイメージして描いていきました。他の作品にも言える事ですが、表情がつかめない子を描いていることが多いです。そうすることでいろいろな見え方になって面白いかな?と思います。観る人のその時の気分によって見え方が変わるかもしれないし、2回目観たらまた感じ方が変わる。そんな余白を作りたいなと思っています。」 『Summer Dreams』 ー 「ポストカードセットを制作する際、パターンを集めたポストカードセットを作りたい、と思い、描いたそのうちの一枚です。お花を描くのはあまり得意ではなく、いつも気に入ったお花が描けなくて、しっくりきていなかったのですがこれはそれが珍しくうまくいった作品です。黄色の入り方も気に入っています。」 左上から時計回りに『FRAMBOISE』『BLUE SALT』『MANGO』『PISTACHIO』 ー 「1月の個展で展示した作品です。普段の自分の顔色や気分を4種のジェラートのフレーバーに見立てています。真っ白なキャンバスや画用紙に向かうとき、どうしても変な力が入ったり、堅くなったりするので、いつもどれだけ無意識なゆるさを作れるかということを考えています。スポーツでもそうですが、最初は身体も慣れなくて筋肉も固まっているけど、時間が経つと馴染んで、考えなくても身体が動くようになる。それと同じで、最初は『うまく描こう』という気持ちがどこかにあるけど、何枚も運動のように描いているとそのうち良い意味で気の抜けた作品が出来てきます。これはそれを実感した作品です。これからもっとこういったことが出来てくるといいなと思っています。」 ガーリーな世界観のイラストの中には、想像以上に大きい、秘められた想いがあった。自分の思った事に対して、まっすぐな気持ちでキャンバスに向かうマリーさん。 「自分の創作欲を満たすように始めた今の活動ですが、作り出すもので周りの人が喜んでくれたり、刺激になったと言われたりすると、本当に心底喜びを感じます。一人で完結する作品ではなく、人との関わりで変わっていく制作をしていきたいなと思っています。」 イラストレーター:岡崎 マリー多摩美術大学の絵画科を卒業後、雑貨の企画会社に就職。その後広告関係の企画会社に転職。雑貨デザイナーをしている頃の2010年あたりから会社の仕事と平行して自身の制作を続けており、現在はルミネエストなど駅ビルのキャンペーン広告やヘアサロンのアートワークなどを手掛けるほか、オリジナルのプロダクト制作(MARY,mon raw.)でも活動中。グループ展、個展、イベント参加もしている。 HP::
2018年03月22日今日から「アンジェのあきいろ作家市」第2弾がスタートします。実りの秋の食卓に似合う、人気作家さんのうつわを集めた「アンジェのあきいろ作家市」。第2弾は下記の4名の作家さんたちのうつわをご紹介します。・阿部春弥(あべはるや)さん・石田裕哉(いしだひろや)さん・葛西国太郎(かさいくにたろう)さん・安福由美子(やすふくゆみこ)さん一度売り切れてしまうとなかなか手に入らないものが多いので、気になるものは早めにチェックしてみてくださいね。■ 阿部春弥さんの柔らかなうつわにはいつもの和食をのせて和食が映える、阿部さんのうつわたち。繊細で冷たい感じさえする磁器も多い中で、阿部さんが生み出す磁器のうつわは潔さを持ちつつもどこか優しげなうつわです。「温かみのある、柔らかなものを作っていきたいんです。僕が作っているものは、日常使いのものですから。」いつものおうちごはんを大らかに受け止めてくれる阿部春弥さんのうつわたちは数が少なめ。気になる方はお早めにどうぞ。■ 静かに花咲く石田裕哉さんの花のうつわたち引き算が難しく装飾のやめ時が見つからないこともあると苦笑いをしていた石田さんに今回作っていただいたのは、静かに咲く花のうつわたち。作ったうつわを自宅で使いながら、料理を盛った時の柄ゆきからそのサイズ感までをご自身の目で確認する作業を大切にする、石田さんの丁寧な手仕事です。■ 葛西国太郎さんの色絵豆皿で、食卓に華やぎをアンジェでも人気のHANI(ハニ)の葛西国太郎さんのうつわも再入荷。「使うと陽気に、そして楽しくなるような、気さくなうつわを作りたいと思っています。そして、それをどんどん使って沢山ごはんを食べてほしいです。」テーブルに並べるだけでダイニングが明るくなるような葛西さんの色絵豆皿は、いくつも揃えたくなる愛らしさです。■ まるで時を重ねたような、安福由美子さんのうつわ何年もの歳月を重ねてようやく生まれるような、そんな質感を纏っているのは安福由美子さんのうつわたち。存在感がある力強いそのうつわたちは、不思議とどんな料理も受け入れる懐の深さも持ち合わせます。「ここぞ」という時に出したい、ひとさらです。「アンジェのあきいろ作家市」には、作り手の「今」を閉じ込めた作家もののうつわたちが集まっています。お気に入りのうつわを見つけて、いつもとちょっぴり異なる食卓での時間を楽しんでみてくださいね。=文:宮城= 食のはなし 作り手さんのはなし 器のはなし 【あきいろ作家市はこちらからどうぞ】
2017年09月29日料理人・樋口直哉さんの著書『おいしいものには理由がある』について、制作裏話をお聞きしました。日頃なじみのある食材・食品を追求し続ける作り手たちの思いは。小説家でもあり、料理人でもある樋口直哉さん。フランス料理が専門の彼が、日本の食を支える生産者や職人を取材したノンフィクションが『おいしいものには理由がある』だ。「仕事上の必要で和食を学ばねばいけなくなった時、自分が日本の食をよく知らないことに気づいたんです。以前から農家は取材していましたが、もっと範囲を広げて話を聞きに行きました」群馬の下仁田納豆、有田屋の醤油、カネサ鰹節商店の潮鰹など伝統的な調味料から、鳥居食品のウスターソースやななくさの郷のマヨネーズなど元は外来のもの、他に肉や牛乳などの生産現場にも足を運んだ。「全部、僕がおいしいと思ったものを取材しています。手に入りやすい身近な食べ物ばかりですよ」作り手には米国の勤め先を辞めて家業を継いだ人もいれば、一から食品加工に挑んだ人もいて、その人生物語でも読ませる。登場するなかには知り合い同士もいて、「いい生産者同士って繋がっているんですよね。人と人が繋がっているだけでなく海、里、山の循環の中で食べ物が出来上がるということも書きたかった。中小企業は代替わりしたところが多く、ユニークな経歴の人も多い」刺激を受けるのは、皆のさらにおいしくするための飽くなき向上心。「変わらぬ味といっても実際はつねに努力していないとまずくなる。消費者の安全・安心志向が高まっていくなかで、その期待にどう応えていくかという頑張りも伝えたかった」また、例えば醤油を造る際の木桶の作り手がいなくなるため、ヤマロク醤油の代表は自ら桶屋に弟子入りし、桶製造業に乗り出したという。次世代へバトンを繋ぐための責任感も伝わってくる。流通の進化もあって、日本の食は昔に比べ、格段においしくなっている、と樋口さん。私たちが日々の食材を選ぶことで、それが作り手たちに還元されている。「国内産の食品を買うと、利益が農家に還元されるだけではない。農家が潤うと田んぼや畑が活用され、耕作放棄地も減って田舎の景色がよくなる。農業は大地を彫る版画という言葉がありますが、自分たちは食べるという行為を通して、日本の風景を作っているんです」『おいしいものには理由(わけ)がある』卵、納豆、醤油、鰹節、昆布、牡蠣、海苔、佃煮、短角牛、鶏肉、牛乳、ウスターソース、マヨネーズ…。日本の食を支える人々を追う。1500円KADOKAWAひぐち・なおや作家、料理人。1981年生まれ。服部栄養専門学校卒業。2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。著書に『スープの国のお姫様』『キッチン戦争』など。※『anan』2017年8月30日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2017年09月04日モデル、小説…“多彩すぎる”活動小説2作目にして山本周五郎賞にノミネートされ、「僅差で受賞を逃した」と報じられた押切もえ。この報道で「押切もえって小説を書いてたんだ!?」と初めて知った人も多いのではないだろうか。押切は、90年代にギャル誌の読者モデルとしてデビュー。その後、『CanCam』から『AneCan』(共に小学館)の専属モデルとステップアップし、小説家デビューは2013年。2015年には、絵画が二科展に入選した。そのほか、おしゃれな作業着で農業に取り組んだり(2015年にすでに行っていないことを告白し叩かれた)、ゴルフ、ヨガ、陶芸、気功、ダンス、座禅、トランポリンなど20種類以上の趣味を楽しんだり、温泉宿やマンションをプロデュースするなど多彩すぎる活動をしている。プライベートでは、2016年2月に、千葉ロッテマリーンズの涌井秀章投手との交際を無断で公表し、謝罪するという騒動があった。押切と同い年の36歳でモデル仲間の蛯原友里は、RIP SLYMEのILMARIと結婚し、1児の母となり、『Domani』(小学館)で専属モデルとして活躍している。その実直ぶりとしばしば比較され、押切のことを「迷走している」「イタい」と揶揄する声もあるようだ。迷走ではない、堅実なのである近年、モデル出身の女優やバラエティタレントがあまりに多すぎて、「モデル」と聞くと「腰掛け」というイメージが漂うようになってしまった。モデルから女優、あるいはバラエティタレント、その次は結婚→出産→ママタレと出世コースがすでにできている。芸能人も安定志向が強くなり、「有名になりたい」「スターになりたい」だけではなく、その後の身の振り方まで考えなければならない時代なのである。押切は、タレントコースを進みながらも、文化系に手を伸ばすことに成功した。これは「迷走」ではなく、「堅実」だ。タレント1本に絞れば、いつか必ずネット民に「劣化した」「オワコン」「イタい」とヤジられる日が来る。その日は遠くはないだろう。しかし、押切には小説がある。小説がダメなら絵がある。文化系の技能は、“劣化”を“進化”に、“オワコン”を“闘魂”に、“イタい”を“深み”に変えることができる。押切は迷走なんてしていない。芸能界という茨の道に「アガリの道」を自ら作り、着々と歩みを進めているのだ。不遇の時代に熟成した思いをネタに押切の創作の原動力となっているのが、不遇時代だ。2009年に出版したエッセイ『モデル失格幸せになるためのアティチュード』(小学館新書)は、いきなりこんな文章から始まる。「太宰治の小説『人間失格』を読み返すたびに、思うことがあります。弱さゆえに転落していく主人公の人生と、私のモデル人生には、どこか似ているところがある、と」そこから挫折と苦労話が綴られる。成り上がり者ほど挫折と苦労と努力と夢の話が好きだ。押切もしかり。といっても、生い立ちがとてつもなく不幸とか、何十年も辛酸をなめ続けたとかいう話ではない。女子高生が遊び感覚でモデルを始めてプロの世界に入ったら、その意識の甘さにオーディションに落ちまくり、所属事務所が解散し、仕事がなく日雇いの日々……といった実質2年ほどの“不遇”である。それをネタに、押切は「どんな挫折や苦しい状況も、必ず乗り越えられる」「その乗り越え方次第で、人間はいくらでも挽回できるし、成長できる」と説く。イッパンジンから見ると、「そんなのいま成功しているから『挫折』と振り返れるだけ、こちとらその緩い坂道を登ったり下ったりする生活を10年、20年、30年と続けているわけで、それは挫折でも不遇でもなくただの日常なんだよ……」とボヤきたくもなるが、それはさておき“不遇の時代”に感じた悔しさ、鬱屈した思い、そこに差した一筋の希望の光を小説という形で昇華させた点には拍手を送るべきだろう。「女性たちの希望と挫折、夢と転機、そしてささやかだけれど確実な奇蹟」(新潮社ホームページより)に彩られた、山本周五郎賞候補作『永遠とは違う一日』(新潮社)の出版時には、押切は次のように語っていた。「大切なのは『努力する才能』なのかもしれないですね。天才と言われる人は努力を惜しまない方々がほとんどと聞きます。だからこそ、努力はすべての才能につながると、私は信じています。トーマス・エジソンが努力家だったということも小さい頃に学んでいるはずなのに、大人になるにつれて忘れがちになってしまったり、誰かが作った幸せに自分を当てはめようとしてしまうんですよね。だから、『自分ってこんなもんかな』って思い込んでしまう。今回の本を通してそこをほぐしてほしいと思いますし、私自身が掛けられたい言葉や思いも詰まっています」(「マイナビニュース」2016年2月27日)ここでエジソンの名を出せるのは、押切もえとちびまる子だけ!原石とも岩石とも判別つかない女子高校生が、美しいドレスを着て別人のように生まれ変わり、読モからモデルへと順調にコマを進め、小説を執筆。不安定時代のシンデレラストーリーを押切が体現している。今後どんな道を進むのか……大して気にならないが、そうして油断している間にとんでもないところに飛んでいってそうな感じがする。事実は小説よりも奇なり。(亀井百合子)
2016年05月18日49歳で作家デビューを果たした“元・食堂のおばちゃん” 山口恵以子(やまぐち・えいこ)さん。2013年には長編小説『月下上海』(文藝春秋)で第20回松本清張賞を受賞し、最近ではワイドショーのコメンテーターとしても活躍するなど、晩年運が開花したようにも見えます。とはいえ、「夢の作家デビューまで苦節35年」「お見合い43連敗」と山口さんの人生は順調とは無縁だったといいます。報われなくても、崖っぷちでも、いつでも全力で駆け抜けてきた女の生きざまを伺いました。お見合い相手に「人格+アルファ」を求めない――山口さんといえば「お見合い43連敗」という武勇伝がありますが、その経験はどんなものでしたか?山口恵以子さん(以下、山口):33歳から40歳にかけての頃ですね。最初の4、5回までは楽しかったんです。でも、それを過ぎると苦痛になってくる。だんだんこちらの目も“値踏みババア”みたいになってきて(笑)。年収、職業、持ち物や服装まで、「あら探し」しちゃうんです。やっぱり減点法はダメね。最後にゼロになってしまうから。結局、私は試さずじまいだけど、加点法ならいい結婚ができるんじゃないかしら。私の場合、どこか考えが甘かったんですよ。お見合いという形でも恋愛できるんじゃないかという幻想を抱いてたんです。男として好意を持てる人、少し恋愛気分を味わえる人……要は「人格+アルファ」を求めてたんですね。売れ残って見えてきたもの――実際、独身女性の大多数が「いつかいい人と出会えたら、結婚したいな」と思っている気がします。山口:でも、そうそういい人がいないわけよ。結婚しない人が増えたいちばんの理由はやっぱり「晩婚化」だと思います。女は30近くになるとリスクマネジメントを考えるじゃない。だから、いきなりバッと燃えられない。人生経験を積んで知恵がついてきちゃうと、なかなか結婚に踏み切れなくなるんですよね。私は別に、考えがあって結婚を拒否したわけではなくて、縁がなくて売れ残っただけですけど、これもまた運命かなと思うんですよ。結婚できなかったマイナス面ばかりを見るんじゃなくて、「嫌いな人と一日じゅう同じ屋根の下に暮らさなくてよかった」と考えることもあるし。恋愛しない生き方だって十分幸せ――以前なら、大半の女性は結婚して、専業主婦になって……という生き方が定番でしたが、今は選択肢が広がった分、悩んでいる女性も多いかもしれません。山口:そうですね。過去も現在も未来も、「上」と「下」は変わらないんですよ。つまり社会階層の話。いつでも平気で既存のルールを破って、どんどん「上」は上に行くし、「下」は下を行く。明治時代にも与謝野晶子とか広岡浅子とかすごい女性はいたけど、あんなの1世紀に1、2人いるかいないかですよ。問題は「中」の人。ウン千百万いるその他大勢の「中」のひとりとしては、一昔前のような「腰がけでちょっと働いて、結婚して、家庭に入る」という生き方も「いいな」と思うんです。今の時代だって別に不幸じゃない。恋愛も結婚も仕事も手に入れようと思えば全部手に入るかもしれない世の中は、確かに恵まれてるけど、万人が恋愛に向いているとは限らない。恋愛を差し引いたところに幸せがあってもいいと思うんです。絶対に受け入れてはいけない条件とは山口:最近、お見合いが見直されてる面もあると思うんですよね。毎日忙しく働いていると、出会う時間もないじゃないですか。以前なら“仲人おばさん”がお世話してくれていたけれど、今はそういう関係性も希薄になって、いなくなっちゃったし。今の時代のお見合いは「婚活の場」だと思うんですけど、あれも悪くないですよね。おたがい結婚という目的で一致しているから、他の方法に比べて関係性が成立しやすいんじゃないかしら。まぁ、そこに結婚詐欺師もいるかもしれないけど。でも、ひとつだけ注意しとくと、どんなにいい男でも「金貸してくれ」っていうヤツはダメよね。ちゃんと返せるアテがあるなら、銀行で借りてるわよ(笑)。「本物の諦め」は全力を出し切った後にある――いずれにせよ、「こうあるべき」という枠を外してみるといいのかもしれませんね。山口:まぁ、私なんて東京タワーと同い年ですから、正社員が落ち度もないのにリストラされちゃうっていう現状が信じられない世代なんですよね。女性も男性もそれぞれ大変だなぁ、と。結婚は“永久就職”だったし、ちゃんとした会社に就職するのも定年まで絶対に面倒をみてくれるってことでしたから。でもね、もしどうしてもやりたいことがあったら、カッコつけないで、持てる力を振り絞って、努力をすべきだと思うんです。どんなにがんばったって叶わない夢はある。スポーツ界なんてもう、歴然としているじゃないですか。オリンピックに行ける人数は限られてる。けれど、本当に全力を出し切った人って、諦めることができるんですね。後悔は人の心を少しずつ蝕んでいく病――「やるだけやったから」と。山口:そう。「諦め」っていうのは決してマイナスではなくて、無用な執着やプレッシャーから解放される、ひとつの救いなんですね。諦めた人は、次の道を見つけることができるんです。けれども「俺はまだ本気出してないだけ」とあれこれ理屈をつけてがんばれなかった人は、諦められないんですよ。で、諦められないと、後悔するんです。後悔は人の心を少しずつ蝕んでいく病なので、後悔しないように生きていかないと、人は幸せになれません。――何をやりたいかわからない人はどうすればいいのでしょう?山口:若くて、まだ自分のやりたいことが見つからない方もいるかもしれません。でも、イヤなことでもちょっとやってみればいいんですよ。やっているうちに、道が拓けるかもしれない。「これがダメなら別の道に行く」っていうのもアリだし、意外に「私に向いてるかも」って思えたら儲けもの。そうやって歩き続けていれば、結果的に崖っぷちでも案外あっけらかんとしていられるんですよ。(大矢幸世/編集協力:プレスラボ)
2016年04月25日「旦那はいない、子供はいない、カレシはいない、おまけに母ちゃんはボケちゃうし猫はDV」インパクトのあるこの一文は、作家・山口恵以子(やまぐち・えいこ)さんの初エッセイ集『おばちゃん街道小説は夫、お酒はカレシ』(清流出版)に綴られているもの。山口さんは、派遣の宝飾販売員や“食堂のおばちゃん”として働きながら、ドラマのプロットライターとして活動、2007年に49歳で作家デビューを果たすという異色の経歴の持ち主。2013年には、長編小説『月下上海』(文藝春秋)で第20回松本清張賞を受賞し、最近ではワイドショーのコメンテーターとしても活躍している。『おばちゃん街道』では、「お見合い43連敗」「大酒飲みでへべれけになり、交番のお世話になった」といった失敗談をあっけらかんと披露している山口さん。周囲からは「人生、崖っぷちじゃん!」と笑われながらも、「小説家になるという夢が叶った今が幸せ」だという。著書そのままにあっけらかんと人生を歩み続ける山口さんの人生論・幸福論とは?『おばちゃん街道小説は夫、お酒はカレシ』(清流出版)夢に「一本の糸」があれば挫折はない――山口さんは少女の頃、漫画家を志していたそうですね。そこから数えると、苦節35年で松本清張賞を受賞されました。なぜ、夢を諦めずにここまで来られたのですか?山口恵以子さん(以下、山口):ずっと自分の中にあったのが「物語をつくりたい」という思いだったんです。自分でも途中で気づいたんですけど、「漫画家の道で挫折して、脚本家を目指したけどうまくいかなくて、小説家に……」というわけではないんですよ。物語をつくるという一本の糸をずっと手繰り寄せ続けて、ついに松本清張賞をいただいたという感じですね。たとえば、「弁護士になりたい」と考えている人は司法試験に落ちてしまったら目標を失うけれど、「法律の知識で人の役に立ちたい」という目的なら行政書士やNPOのボランティアなど、別の形を探せますよね。私の場合は「物語をつくる」という目的があったので、その手段として「漫画家」「脚本家」「小説家」を次々に試していったという感じです。“腰かけ”の意識で働いていた頃――会社員や派遣社員として働いていた時期もあったようですね。松本清張賞を受賞された頃は“食堂のおばちゃん”として社員食堂に勤務されていたそうですが。山口:宝飾店の派遣店員をやっていた頃の意識は、完全に“腰かけ”でした。「漫画か脚本で食えるようになったら、いつでも辞めてやるさ」って思ってたんです。でも、“食堂のおばちゃん”の頃はちょっと違いました。働き続けるうちに、自分の性に合っている気がしてきて、だんだん職場が好きになったんですよ。――なぜ、“食堂のおばちゃん”になったのですか?山口:新聞の求人広告欄でたまたま見つけたんです。「午前6時から11時までの5時間勤務で、時給1500円、土日祝休み、有休・賞与あり」という条件でした。この勤務時間なら制作プロダクションの企画会議にも全部参加できるし、おいしい話だな、と。応募してみたら、運よく採用してもらえて。キャラ設定も“武器”にする「社員食堂での経験も小説家としていつか役に立つかも」と考えていたわけではなかったんですけど、「松本清張賞の最終候補に残りました」と電話をもらったときは、「これはウリになるな」と確信しました。「食堂のおばちゃんが作家に」なんてマスコミの格好のネタじゃないですか。苦節35年ですから、そういう“打算”もできるようになったんですね。――“小説を書く食堂のおばちゃん”というキャラクター設定に抵抗感はなかったのでしょうか?山口:むしろありがたかったです。小説がどんどん売れなくなってる今の時代、新人作家が見切りをつけられるサイクルも早まっています。受賞したときに”執行猶予1年”だと思いました。来年の今頃には新しい受賞者が出るから、それまでに今よりも一段上がっていなければ、作家として生きてはいけないだろうと。「自分以外の理由」で諦めると後悔する――エッセイを読むと、山口さんが夢を諦めずにこられたのには、お母様の影響があったようですね。山口:母は若い頃にオペラ歌手になるという夢を諦めたんです。その母に、私が出版社の編集部に漫画の原稿を持ち込んだ話をしたことがありました。編集者から「絵がヘタだからやめたほうがいい」と言われて悔しかった、と。すると母は「あなた自身が『自分には才能がない』と感じて諦めるならいいけど、『もう歳だから』『誰々さんが結婚したから』と自分以外の理由で諦めると、のちのち後悔することになるわよ」って言ったんです。今でも印象に残っている言葉です。人間関係は「縁」で始まり、「相性」で続くもの――お母様の存在は大きかったのですね。母と娘は距離感が難しいこともあるように思いますが。山口:私、完全にマザコンでしたから。母の言うことは絶対……とまではいかなくても、一理あるとずっと思っていました。人間関係はご縁で始まり、相性で続くもの。私の場合、母との相性がすごくよかったんですね。ただ、あまりにも相性がよすぎて、母以外に強い人間関係を求める気持ちが弱かったんです。だから親友と呼べるような友人もいないし、「お見合い43連敗」っていうのも、母が心のどこかで私を結婚させたくないと思っていたせいじゃないかと。私自身も「会ったばかりのヘンなおじさんと結婚するくらいなら、ママとふたりで楽しいおばあさんになればいいじゃん」と思ってましたし……大失敗ですよ。「結婚しない」から「結婚できない」に変わったとき――そのお母様が要介護になられて、関係は変わりましたか?山口:70歳くらいまで母は歳よりも若くて元気だったのに、父が亡くなって3年ほどでボケはじめてしまって。母を支えられるのは私だけなので、そこで初めて「あぁ、これで一生結婚できないな」って気づきました。それまでは、「私は結婚できないんじゃない、結婚しないだけ」と思っていたんです。もう私を守ってくれる人はいなくなってしまった。これからは私が自分の手でしっかりと母を守っていかなきゃいけないんだ、と。意識が180度変わりましたね。人生には「階段の踊り場」が必ずある――その現実に直面したとき、落ち込みましたか?山口:やっぱりすごく不安でしたし、悲しくて、みじめでもありました。でも、階段の踊り場のように、転がり落ちてもどこかで止まるんですよ。ちょうど社員食堂に就職したばかりで、介護に仕事にいっぱいいっぱいでヒステリーを起こすこともありました。でも、ボケた母は私がいくら怒りをぶつけたところでポカンとしたまま暖簾(のれん)に腕押しなんですよね。そんなことを繰り返しているうちに、私も母も新しい環境に慣れてきて、母のボケも変化が穏やかになってきて。おたがいにタイミングが合ったのか、「現状を受け入れるしかない」と覚悟が決まりました。母は要介護2認定ですが、幸い、自分でトイレに行ったり、おにぎりを作って食べたりもできるので、まだ助かっているほうですね。(大矢幸世/編集協力:プレスラボ)
2016年04月22日