2020年9月7日 19:10
落下するコアラ、ワニの洗髪屋…劇作家・藤田貴大が描く初の小説とは
演劇ユニット「マームとジプシー」の主宰、藤田貴大さんが初の小説を上梓した。タイトルは『季節を告げる毳(けば)毳(けば)は夜が知った毛(も)毛(け)毛(も)毛(け)』。さまざまな断片が連なり、やがて大きな物語が見えてくるモザイク画のようなつくりだ。
「最初はたくさんの掌編を書かないか、という話でした。書き方も、小説でも戯曲でもなんでもいいと言われ、それなら面白そうだと思って。でも書いているうちにだんだんストーリーが出てきて、短編として読めるね、という話になって」
舞台は東京。落下するコアラ、謎の声を聞くと死ぬ人々、ワニの洗髪屋、いじめられる少年、何気ない一言に傷つく少女、冬毛という植物等々。描かれる世界はどこか不穏だ。
「書き始めた時期、ヘイトという言葉をよく耳にするなど“おやっ”と思うことが増えていたんですよね。差別が罷(まか)りとおっていくようなムードの高まりが怖いなと感じたことを、声を聞いたら死んでしまう現象として書いたし、洗髪屋のワニについては移民の問題を考えていたと思います。いろいろ動物が出てくるのは、偉そうにしている人間だって動物だという気持ちがあるから」
また、産毛などの体毛、資源にもなる冬毛など、さまざまな“毛”が描かれるわけだが、
「中学生の時、隣の席の女の子が突然腕の産毛を剃ってきたことがあって。