2021年10月21日 20:10
京本大我、主演ミュージカル『ニュージーズ』観劇ルポ。新たなプリンシパルの誕生を確信させた珠玉のミュージカル。
今思えば、このときに向け、それだけの準備を整えてきていたのに違いない。
オーバーチュアが流れ、哀切なトランペットの音色がやがてオーケストラとなり、待ちに待った幕が上がる。
京本さんが演じるジャックは、「ニュージーズ」と呼ばれる新聞売りの少年たちのリーダー格。彼らは、ほとんどが孤児やホームレスで、わずかな稼ぎのその日暮らし。そんななか、戦争が終結して以来、販売部数の低迷に頭を悩ませる「ワールド」紙のオーナー・ピュリツァー(松平健)が、利益を上げるために、一方的に卸値価格の値上げをニュージーズたちに通達。弱い者たちから搾取しようとする新聞社のやり方に怒りをおぼえたジャックは、仲間たちに声をかけ一斉ストライキを画策する。
ジャックは周りから慕われる存在とはいえ、貧しく粗野な一面を持ったキャラクター。最初に京本さんが演じると聞いたときには、正直、その美しい顔立ちや、彼自身の生まれ育ちが、ジャックに邪魔になるのではないかと懸念した。
なにせ同じ小池修一郎さん演出のミュージカル『エリザベート』では、皇太子・ルドルフを演じていたくらいだ。
しかし冒頭から、それがまったくの杞憂だったと思わされるどころか、舞台に立つ京本さんは堂々として頼もしく、荒っぽい口調には、ニューヨークの街で生き延びてきたジャックのしたたかさや自負のようなものも滲み出ていた。