くらし情報『家具が人と人とをつなぎ、心の柔らかな部分に触れてくる…被災文学『花盛りの椅子』』

2022年4月12日 19:10

家具が人と人とをつなぎ、心の柔らかな部分に触れてくる…被災文学『花盛りの椅子』

鴻池さんは『世界はこうあってほしい』とかがあまりない人で、空っぽだからこそ、死者のすごく小さな声や、ささやかな痕跡に気づけるのかなと思って。すごい長い時間をかけて物事を考え、静かなメッセージを受け取れる人に設定したという感じですね」

津波にさらわれたのちに森野古家具店に持ち込まれたアンティークの椅子と、鴻池さんの不思議な縁。台風で水浸しになった箪笥のリメイクがなかなか完成しない本当の理由。豪奢な古民家の襖に宿る、一族のつらい歴史。家具が有機物のように人と人とをつなぎ、人の心の柔らかな部分に触れてくる。

「小説内でも書きましたが、普通の古家具屋なら扱わないレベルの損傷具合です。その分、幻想譚として書けたところもあります。人間はどうしても忘れてしまうし、代謝するし、動く動物の忙しなさが虚しく思えることがあって。
でも家具なら、その部屋の中にとどまっている。生活の些末なことさえずっと覚えてくれているとしたら、とてもいじらしい存在ではないかと感じるんですよね」

本を閉じてなおさまざまな感情が湧き上がる。すばらしい小説集だ。

清水裕貴『花盛りの椅子』リメイクを待つ家具をモチーフに描かれる、連作短編集。

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