2022年4月19日 19:10
戦時下での若者たちの三角関係の行方は…古市憲寿の純愛小説『ヒノマル』
異質な他者との出会いによって人はどう変わるのか。それを見つめるのが大きなテーマでした」
極限を苦悩しながら生きる若者たちの姿が描かれるが、読み心地は存外に明るい。
「確かに重苦しい時代ですが、戦時中には戦時中なりの青春はあったと思うんです。たとえば、勇二らは勤労動員で軍需工場に行かされますが、夜中に涼子たちがいる女子寮に忍び込んだりします。実際にあったエピソードを参考にしたのですが、どんな大変な時代に生まれたとしても、楽しみ方はある。それは現代にもいえる話だと思います」
本書には、機転が利いて要領よく立ち回れるような人物も多く登場するが、そんな人間でも時代の常識から完全に逃れるのは難しい。
「ただそうした束縛を突破できる力があるとすれば、『自分や大切な人を守りたい。一緒に幸せになりたい』しかないのかなと。
そんな思いを込めた作品です」
シンプルだが力強いラストの一文まで、一気読み必至の大ロマンスだ。
ふるいち・のりとし1985年、東京都生まれ。社会学者。同世代の視点からの新たな若者論『絶望の国の幸福な若者たち』で注目を浴びる。2018年に初小説『平成くん、さようなら』を発表し、コンスタントに作品を書き続けている。