2022年11月15日 20:00
「黒と白」で描く、愛しくも哀しい人間界のドラマ…ヴァロットンの木版画が一挙に初公開
の背中だけが不気味に黒く残る。
こうした「黒」の表現について、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」(芸術評論家タデ・ナタンソンの言葉 1899年)という評も。墨だけで描かれた水墨画がその濃淡で豊かな表情を見せる一方、ヴァロットンの色のない世界は、時に一途なまでの思いを秘めているように見えてくる。
第一次世界大戦が勃発すると、52歳にして従軍画家として前線に赴く。その前年に制作された連作〈これが戦争だ!〉では、触手のような鉄条網に搦めとられた人間の体(死体)が描かれる。若かりし頃、辛辣さやブラックユーモアと解されてきた精神は、年齢を重ね、達観した表現へと至ったようにも。愛しくも哀しい人間界のドラマは、黒と白で描くからこそ美しいのかもしれない。
フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年木版、紙三菱一号館美術館
フェリックス・ヴァロットン《フルート(楽器II)》1896年木版、紙三菱一号館美術館
フェリックス・ヴァロットン《怠惰》1896年木版、紙三菱一号館美術館
フェリックス・ヴァロットン《有刺鉄線(これが戦争だ!III)》1916年木版、紙三菱一号館美術館
ヴァロットン―黒と白三菱一号館美術館東京都千代田区丸の内2‐6‐2開催中~2023年1月29日(日)