早乙女太一「時代劇のファンタジーのような世界をいかに身近な物語としてお客さんに伝えられるかが課題」
武時や妻の浅茅(あさじ)だけではなく、他の人物もそこが垣間見えるよう描かれていて、それぞれの細かい心の動きを赤堀さんが丁寧に紡いでくれる。台本に書かれている点と点を、線で繋ぐだけでなく、その線自体も細かな点でできている感じ。たとえば、しゃべりながら気を遣っているときもあれば、顔を繕っている瞬間もある。そういう感情を丁寧にたどっていくのが楽しいです」
ただ、今回は時代劇。
「やっぱり身近に死がある時代だけに、登場する人たちの生へのエネルギーってとんでもない。そこは頭で考えてもわかるものではないから、とにかく稽古場でみんなで本気でぶつかっていくしかないんです。だから自然と点と点からなる線もすごく太くなる。その感情的になる熱い感じは、普段の赤堀作品にはなかなかない。
でも、武士がなぜ大きい声を出すのかという意味までしっかり作ってくれているんですよ。それでもやっぱり時代劇的な表現の中では、赤堀さんの描こうとする繊細さが伝わりにくいんです。しかも時代劇って、侍言葉も含めて今のお客さんにとっては距離があるファンタジーのような世界。それをいかに身近な物語としてお客さんに伝えられるか、ちゃんとそこに生きている人間として見せられるかが課題ですね」