ちりばめられた名言が刺さるかも? 青春群像劇を描く『取るに足らない僕らの正義』
小夜子をめぐる男女は、才能に恵まれた特別な存在として彼女に憧れる半面、コンプレックスに身悶える。だが、小夜子自身もまた低い自己評価に苦しんでいるさまを、川野さんは静かに描き出す。
「読んだらわかると思うんですけど、私自身が劣等感強くて、結構いろんな人に思うんですよね。『ああ、この人には勝てないな』とか(笑)」
登場人物がところどころでつながる全7話の連作形式。肝心の小夜子が登場するのは4話目からだ。
「朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』が好きなので、最後まで出さないのもありかなあとか考えたりもしたんですけれど」
各編の冒頭には、物語とリンクした小夜子の曲の歌詞が置かれ、小夜子が実在するかのように錯覚してしまう。詞は、川野さんの自作だ。
「文章を書くのも好きなんです。
ウェブで連載を始めたとき、歌詞にメロディをつけて送ってくれたファンもいて、うれしかったです」
本書最大の魅力は、言葉の力。〈私は大切なもののためならいくらでも傷つくと。〉〈恥ずかしくて 死にたくなれよ。生きてるなら。〉をはじめ、ちりばめられた名言に胸を射貫かれる人は多いはず。
川野 倫『取るに足らない僕らの正義』舞台は東京・下北沢と宮崎。