ゲームクリエイター・小島秀夫監督のエッセイ新連載がスタート!
昨年の秋から、Spotifyで僕のポッドキャスト番組『Hideo Kojima presents Brain Structure』の配信を行っている。日本語版と英語版を、全世界に同時配信するという実験的番組だ。ゲストに招いた映画監督のジョーダン・ピールと対談をした回の冒頭で、彼は、子供の頃に『MGS2』(※『メタルギアソリッド2』)をプレイし、自分の“物創り”に大きな影響を受けたと語ってくれた。『MGS2』には「フォーチュン」という悲劇のヴィランが登場する。彼女は、戦場では奇跡とも言える程に弾丸に当たらず、爆発を逃れ、擦り傷ひとつ負わない。だから「幸運の女王(フォーチュン)」と呼ばれ、恐れられている。しかし、彼女は日常生活では不遇に蝕まれている。実はこのキャラクターは、「幸せの本質」を考えてもらうために創ったのだ。
幸運を全て戦場で使い切ってしまうため、日常ではその反動で不幸が噴出する。だから、「幸せはみんな平等に訪れる。不幸のどん底にあったとしても、幸福はどこかに転がっている」と、フォーチュン・クッキー=“おみくじ”の構図を、伝えたかった。ジョーダンは、このキャラクターが背負わされた、過酷な哀しみに惹かれたようだった。