忽然と消えた、ピル解禁を訴えた女性のその後に迫る…桐野夏生によるセミドキュメンタリー風長編
小説でも書きましたが、彼女は選挙に出て大敗して専業主婦になると表舞台から消えた。そこから先がまったく追えないんです。それもあって、塙玲衣子というヒロインに託し、ルポライターの女性が塙の軌跡をたどって複数の人物にインタビューを試みる形にしました。そうするしか、立体的に描けなかったんですよね」
本書の中で取材に応じたのは、彼女と活動を共にしていた元同志の女性や塙の記事を掲載していた週刊誌の編集長や記者など。多くは桐野さんのイマジネーションから生まれた人物だが実際に会えた関係者もいる。
「お話を伺いたかった方もすでにお亡くなりになっていたので、真実に迫れたものもあるかもしれませんが、ほぼ推測です。ただ榎さんの元夫や幼なじみからは生の証言をもらえてありがたかった。第三章の編集部に届いた手紙、実は本当のエピソードなんです。
連載中に、榎さんと親交のあった女性が手紙をくださって。これには興奮しましたね」
真実に迫っていたからこそ起きた、奇跡のドラマではないのか。彼女の苛烈な人生を見届けてほしい。
桐野夏生『オパールの炎』宝石の中で唯一水分を含むオパール。石の中で炎のようなゆらめきを放つその様は、女性たちが内奥で燃やす思いと重なるよう。