たくましくてまぶしい…母親の死という喪失から出発して、生き始める少年の物語『あのころの僕は』
そんな天くんがイギリスからの転入生〈さりかちゃん〉に心を寄せたのは、自分と同じように〈つぎからつぎへと差し出される〉親切や関心に戸惑っている心情を感じたからだ。さりかちゃんの母親が作ったサンドイッチ弁当や、ふたりで遊ぶロールプレイングゲーム…他愛のないイベントも、〈僕〉が世界を理解するための手がかりになる。
「あれを初恋と呼ぶ人もいると思いますが、彼にとってさりかちゃんは自分と近い境遇の、でも自分より何段階も力強く世界を生きている先生でもあるし先輩でもある。他者と同期したい気持ちがこういう形で出てきたのかな、という気がしますね」
本書も小池さんの小説の大きなテーマである喪失が描かれてはいるが、これまでにない明るさも感じる。
「大人は過去をくよくよした目で見がちで、後悔を見つけ出したり嘆いたりする。そうやって喪失や別れの体験を自分なりに納得させていくのだろうと思いますが、子どもは喪失から出発して、生き始めます。その一歩一歩の歩みが大人からするとたくましいし、まぶしい。そんなところが伝わればうれしいですね」
『あのころの僕は』母親を亡くしたばかりの少年の話で、直接的に母親を思い出す場面がこれほど少ない小説は稀有。