「自分たちと逆の立場の人物を描いた」。憎しみの歴史をどう乗り越えるかという普遍的な問いを投げかける映画『判決、ふたつの希望』
中東・レバノンの首都ベイルートである日起きた二人の男の些細な口論。それをきっかけに悪化していく衝突のなかでこぼれ出た、「許されざる侮辱の言葉」と暴力。このいざこざが裁判へと持ち込まれ、国中を巻き込む騒乱へと発展していく物語を描いた映画が『判決、ふたつの希望』である。
第90回アカデミー賞ではレバノン史上初めて外国語映画賞にノミネートされ、主演男優の一人であるパレスチナ人の俳優カメル・エル=バシャは第74回ベネチア国際映画祭でパレスチナ人として初めて最優秀男優賞を受賞した。8月31日に日本での公開を控え、同作の監督ジアド・ドゥエイリ氏が来日。今回Be inspired!は憲法学者の木村草太氏を迎え、この法廷劇に込められた思いについて監督にうかがった。
ジアド・ドゥエイリ氏(左)と木村草太氏(右)
許されざる侮辱の言葉
きっかけは些細なことだった。レバノンの首都ベイルートの住宅街で違法建築の補修作業を行なっていたパレスチナ人の現場監督ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)はあるアパートのバルコニーから水漏れしていることに気がつく。流れ落ちてくる水が従業員の作業の邪魔となるため、彼は補修作業の許可を取りにそのバルコニーの持ち主の部屋を訪れた。