「自分たちと逆の立場の人物を描いた」。憎しみの歴史をどう乗り越えるかという普遍的な問いを投げかける映画『判決、ふたつの希望』
しかし、そこに妊娠中の妻と住んでいるレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・カラム)は横暴な態度で修理を拒否。そこで外から勝手にバルコニーを修理すると、トニーは激怒し直したばかりのパイプを壊し、それを目撃して不快に感じたヤーセルは「クズ野郎」と罵声をトニーに浴びせてしまう。
トニー(左)とヤーセル(右)
トニーはヤーセルの上司であるタラール所長に謝罪を求めて猛抗議をしたため、タラールがヤーセルを説得し、ヤーセルは渋々と謝罪をするためにトニーのもとを訪れる。しかし、そこでも口論が勃発。トニーは「許されざる侮辱の言葉」をヤーセルに浴びせ、それを受け我慢しきれなくなったヤーセルはトニーを殴り肋骨を骨折させてしまう。この暴力が決定打となり、些細なことから始まった二人の男の衝突は舞台を裁判所に移し、それを聞きつけたメディアが大々的に報じたことから、この裁判の行方は国中を巻き込む暴動へと発展していく…。
自分と逆の立場の人物を描く
主人公の二人はまっすぐで正直という点では似ているが、言うなれば正反対の存在。トニーは、マロン派のキリスト教徒(レバノン国内のカトリック系キリスト教徒)のレバノン人で、ヤーセルはスンニー派ムスリム(イスラム教徒の人口の約90パーセントを占める多数派の宗派)