「自分たちと逆の立場の人物を描いた」。憎しみの歴史をどう乗り越えるかという普遍的な問いを投げかける映画『判決、ふたつの希望』
のパレスチナ人。レバノンの歴史において対立関係をもつ属性を持った二人だったのである。些細なことで始まったこのいざこざは、二人の属性の衝突だったというのが正しいであろう。というのも、レバノンでは1975年から1990年まで内戦が続き、この内戦において右翼的なマロン派のキリスト教と左翼的なムスリムは政治的にも宗教的にも対立していた。さらに、1970年以降、ヨルダンによるパレスチナ解放機構(PLO)追放を理由に、増加したレバノンへのパレスチナ難民に対しても両者は対極的な意見を持っていた。「パレスチナ難民がレバノンに問題を持ってくる」というのがマロン派のキリスト教のなかでは主流の見方だった。トニーがヤーセルに浴びせる「許されざる侮辱の言葉」にも、この歴史がからんでくる。
ドゥエイリ監督と元妻ジョエル・トゥーマ氏によって書かれたこのトニー(マロン派のキリスト教徒)とヤーセル(パレスチナ難民)というキャラクターの抱える、レバノンの歴史を体現するような対立関係には、二人の生い立ちが反映されている。
ドゥエイリ監督の両親は、監督が幼い頃から熱心にパレスチナ難民の権利のために闘ってきた左翼的なムスリムで、トゥーマ氏の両親は極右のキリスト教徒だった。