【シネマモード】鬼才アトム・エゴヤンが描く、2人の女
クロエは、若さと美貌を誇り男たちから欲望の対象として見られ、女としての自信をみなぎらせている一方で、あくまでも自分は“つまみ食い”的存在でしかないことも認識していて、人に心の底から欲されることを渇望しています。持っている幸せの種類も、抱えている空洞の種類も違うそんな2人が、互いに深く関わっていくことになるのです。“運命の歯車”が大きく狂っていくとも知らず。
キャサリンがクロエに仕事を依頼したとき、2人は単なる依頼人と請負人の関係でしたが、何度も会い、クロエがデビッドとの情事をキャサリンに報告していくごとに、2人には強い共犯関係が生まれていきます。キャサリンに望まれる自分に夢中になるクロエと、夫の知られざる素顔を明かすクロエの物語に夢中になっていくキャサリン。本来は、敵対する関係にあってもおかしくない、奪われる立場と奪う立場にいる女たちなのですが、2人は自分にない部分を相手の中に見つけ、そこに羨望を抱きながらも、互いに満たされないものを持っているという共感から依存関係を深めていくのです。やがてそんな依存関係は、より深いものへと発展していき…。
当初、エゴヤンがなぜリメイクを手がけるのか不思議でしたが、キャサリンとクロエの関係性が、『恍惚』よりもはるかに濃密に描かれている後半を観て、なるほどと考えました。