【シネマモード】キッチンから見えてくる、甘酸っぱい素顔のイラン『イラン式料理本』
そこから聞こえてくるのは、伝統的な家庭料理の作り方だけでなく、悲喜こもごもの人生模様。家族の中での妻の役割、夫への不満、姑への皮肉、家族への愛情などについて、人生に関する酸いも甘いも、心の赴くままに語り続けているのです。
このあまりに率直な女性たちのつぶやきを通して、驚くべき素顔のイランが見えてきます。これまで観てきたイラン映画にはない、あまりにストレートな本音の数々に、私は最初とまどいました。自分が勝手に抱えていたイメージとあまりにも違ったために。そして、徐々に安心しました。イスラム社会では、女性たちは虐げられる傾向にあるとばかり思っていたので、必ずしもそうではないと分かったために。
もちろん、思いやりのかけらもなく威張りくさってばかりいる夫と、母親の言うことなど一切聞かず暴れまくる双子の男児、数時間をも費やして食事を作る妹の姿には、既存のイメージが付きまといます。
でも、姑や夫にユーモアたっぷりに嫌味を投げかけつつ、楽しげに何品もの伝統料理を作っていく監督の義母などは、どこの世界にでもいる肝っ玉母さんそのもの。イランにも、妻の尻に敷かれた夫と、夫をあごで使う恐妻がいるのだなと、大笑いしたりもしました。