【シネマVOYAGE】人の記憶は曖昧で不確か…誰もが経験する青春時代をたどって見えてきたもの
ジム・ブロードベントの演じる主人公トニーの元に、ある人の遺品に関する通知が届くところから物語は始まる。亡くなったのは40年も前の初恋の相手ベロニカの母親。「添付品をエイドリアンの親友であるあなたに遺します」という手紙を受け取るが、そこに添付品はなかった。遺品は青春時代の友人エイドリアンの日記であることが判明するが、なぜその日記をベロニカの母親が持っていたのか──記憶をたどり、40年ぶりにベロニカ(シャーロット・ランプリング)と再会することで、ある事実が明らかになっていく。
老人が青春時代をふり返り、現代と過去が交差していく物語は珍しくないが、この『ベロニカとの記憶』がありきたりの物語になっていないのは、感情も、記憶も、事実も、すべてが明らかにならないことだ。未解決というわけでは決してなく、劇中のエイドリアンが発するセリフにもよく表れているが、人生は不確かなもので溢れていて、それが人生である。その不確かなものを知りたくて観客は映画にのめり込むわけだが、すべてを明かさないことで想像はより膨らみ、物語が進むにつれ発見がある。それは単なる謎解きの発見だけではなく、感情における発見。
とても知的かつ感傷的な映画だ。