マライアや“ボサ・ノヴァの神様”にも影響を与えたジャズ界のレジェンドとは?
ことも当時のジャズ界では異彩を放った。だが、マリガンの薬物トラブルにより、そのバンドは約1年で解散。
チェットはピアニストのラス・フリーマンをパートナーに、新バンドを結成する。巨人マイルスを抜き、ジャズ専門誌の人気投票でトップに輝いたのもこの時期。また54年には、初のヴォーカル・アルバム「チェット・ベイカー・シングス」も制作。ライヴ会場は女性客で溢れ、ハンサムな容姿、語りかけるような歌声やトランペットの優しい音色に嬌声があがったという。
そのチェットが大きな影響を与えたのが、ボサ・ノヴァを創成したとされ、“ボサ・ノヴァの神様”と称されたジョアン・ジルベルトだ。チェット登場以前の“歌うトランペッター”といえば、ルイ・アームストロングに代表されるように、野太く声量たっぷりに歌い、並はずれた肺活量と唇の強さを誇るかのように高音を吹きまくるスタイルが主だったが、チェットはそれと正反対のアプローチをとった。
決して力まず、クールに。そのスタイルはジョアン・ジルベルトのみならず、現在もティル・ブレナーやアンドレア・モティスのパフォーマンスに受け継がれ、マライア・キャリーなど多くの人気アーティストがその音源をサンプリングしている。