自伝映画ではない、“個人的な映画”としての『マリッジ・ストーリー』
二人は2013年に離婚している。
チャーリーの劇団を看板女優として、そして妻として支えてきたニコールは、かつてはハリウッドで学園映画のスターだった。映画内に登場するニコールの主演映画はいかにも90~00年代の学園コメディという感じで、彼女はそこのパーティ・シーンでいきなりシャツを脱いで上半身ヌードになり、話題を集めたという設定だ。ジェニファー・ジェイソン・リーのブレイク作だった『初体験リッジモント・ハイ』(1982)を思い起こさせる。
ニコールはチャーリーと彼の劇団から離れ、古巣のハリウッドでSFドラマのパイロット(試作)制作に参加する。その前に出演していたチャーリーの舞台では、彼女は黒子のような俳優たちに手足を操られて演技していた。自分のキャリアを築くのではなく「夫の才能に寄与してしまった」というニコールの言葉を裏付けるような演出だ。しかし、彼女が自分で選んだはずのSFドラマでも同じことが起こる。
グリーンバックの中で、SFX用に様々な仮面を着けて撮影される彼女はやはり操り人形のようだ。植物に世界を乗っ取られるというこのドラマの内容自体が、リーの出演した『アナイアレイション-全滅領域-』(2018)