田中泯、世の中の“分かりやすさ”に違和感…葛飾北斎の演じ生き方に共感も
あんなに克明に人の体の瞬間を描き続けた人なんて、ほかにいないでしょう。だいたい絵描きといえば、描く対象をじっとさせるわけです。それで絵描きのテンポで描いていく。北斎は逆です。ちょっとした瞬間を逃さず切り取る。もう愛としか言いようがない。好奇心と、愛の力。あんな情熱のある瞬間を生きられるだろうかと思いますよ。
――田中さんはずっと踊られてきましたが、北斎と同様、人や自然を見続けてきましたか。
もちろん。師匠から教わりました。他者に対して好奇心を持たない人間に、だれが興味を持つんだと。
――北斎は90歳まで生きて、死の間際に「あと5年あったら、本物の絵描きになれたのに」と言ったとされています。その思いに共感できますか?
うん、できる。どうせ死ぬならそういう風に死にたいですね。死ぬ瞬間までもっと生きたいと思い続けるような人生を送りたい。
――常に走り続けたい?
別に歩くでもいいんですよ。1日1日、あるいは1年1年でも。とにかく人が語る人生観には乗りたくない。みな自分にとっての新しい瞬間が常にやってくるわけでしょ。それに自分はどうやって付き合っていくか、それだけです。生きるなんて言ってみれば方便です。