2015年10月13日 12:00
兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃 (32) 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
よって、暴力は抜きで、「前のほうが良かった」と言われた時のスマートな対処法を考えてみる。「前の方が(略)」と言われた作家は、くわえていた葉巻を灰皿に押し付け、「これが今のオレのベストだ。それに君がついて来られなかったと言うなら、残念だが仕方がない」と細い煙を吐きながら言い残し、マントを翻しながら読者に背を向け颯爽と去ることで、穏便に場を収めることができるだろう。これが、己の作品に自信とプライドを持った一般的な作家の態度である。
では、私が「前の方が(略)」と言われてどうするかというと、「今すぐ前の作風に戻すから、ファンを辞めないでくれ」と言う。実を言うと、「お前らに言われなくても、俺が一番前の方が良かったんじゃないかと思っている」のである。現に、数字の上でもデビュー作が一番売れているため、一刻も早く初期の作風に戻すべきだとさえ考えている。
しかし、はっきり言ってしまえば、作風というのは「前のものに戻そう」と思って戻せるものではないのである。
アラフォー女が「ハタチのころの方が良かったから、ハタチに戻る」と言ったところで戻れないのと同じである。20代の頃の発想力を取り戻すのはもちろん無理だし、絵に関しても、当時の絵をマネして描いたとしても、場数を踏んだことで変に小手先の技術が上がってしまっているため、「デビュー作の劣化コピー」