奥様はコマガール (39) のんびり屋の妻と驚異的な着物騒動
あわや家宝を足で踏みつけそうになったことも、一度や二度ではなく、そういう危険回避の意味でも、チーにはできるだけ早く行動を起こしてもらいたい。
「ねえねえ、チーさん。
いつになったら着物を送るの? 」。
年末のある日、僕は勇気を出して、おそるおそる訊ねてみた。
「このままだと、年を越しちゃうよ」。
その瞬間、チーの顔色が変わった。
あきらかに不機嫌そうに頬を膨らまし、下唇を剥きながら言う。
「今やろうと思ってたところなのに、そういうこと言わないで! 」。
ああ、やっぱりこのパターンか。
普段からチーは、他人に時間を急かされるような苦言を呈されると、途端に憤慨するところがある。
なんでも子供のころから、何かと周りに「遅い! 」「早く! 」と怒られ続けてきたため、その手の台詞に嫌悪感があるらしい。
したがって、僕もこれ以上はしつこく追及できなかった。
チーが「今やろうと思ってたところ」と言うのだから、それを信じるしかない。
いや、期待するしかない。
果たして、結果はまたもや期待外れだった。
結局、夫婦の家宝が寝室に転がった状態のまま、2012年の年が明け、あっというまに正月もすぎた。