奥様はコマガール (49) 父母の思い出話と僕らの思い出作り
僕が生まれる前の父と母の関係、それはきっとごく普通の若い恋人同士だったのだろうが、我が父と母にもそういう時代があったのだと思うと、実に興味深い。
かぐや姫のヒット曲『神田川』が聴こえてきそうな、昭和40年代後半の恋と青春である。
そして、そんな思い出話は現在もなお続いている。
どこの年老いた親もそうであるように、父母は同じ話を何度も何度も繰り返し、最後には決まって「あのころが一番楽しかったなあ」とオチをつける。
これまでに最低20回は聞いたはずだ。
だから最近の僕は、そんな思い出話にさして新鮮さを感じなくなっている。
しかし、だからといって冷めた口調で「それ、前も聞いたよ」などとは決して言わず、父母が同じ話を再び繰り出すたびに、素直に相槌を打つようにもしている。
それに水を差したくない最大の理由は、その思い出話をしているときに父母の間に流れる独特の温かい空気が僕にとって妙に心地良いからだ。
話の内容自体は聞き飽きているものの、父母の語り口や表情、すなわち2人の雰囲気は何度味わってもたまらない。
僕が昔からなんとなく想像していた恋人時代の父母のイメージに、鮮やかな彩りとリアルな息吹が加えられる。