岩本沙弓の”裏読み”世界診断 (19) 日本破綻なら海外逃亡? - 『ミス・サイゴン』が教える”国を捨てる”事の意味
母子は二度と会えないのだろう、という悲劇。
それでも娘に米国でのよりよい生活をと望む母は送り出す決意をする、その思いは劇中の挿入歌である「命をあげよう」に現れています。
『あげよう私に無いもの、大人になって掴(つか)む世界…』と歌い切ったのは、今は亡き本田美奈子さんでした。
アイドルのイメージが払しょくされていなかった彼女が母親役のキムにキャスティングされた時は誰もが意外と思ったはずです。
しかし、実際に彼女の歌声、立ち居振る舞いを見て納得。
細身ながらも浪々と歌う様子は、当時のベトナム人の方々の置かれた窮乏と母の強さとを見事に演じていました。
劇中に実物大のヘリコプターが登場するスケール感、あるいは帝国劇場100年の歴史上でも異例のロングランなどでも話題になりましたが、私自身が魅かれたのは小学生の頃に買ってもらった『ベトナムのダーちゃん』という本の影響だったのかもしれません。
今となってはその内容すら、ベトナム戦争に翻弄された一人の少女の話ぐらいにしか覚えていないのですが、この本に出会って以降、特に庶民の目線で描かれた戦争文学にのめり込んでいった我が身の読書歴を考えると、一方ならぬインパクトがあったのだと思われます。