岩本沙弓の”裏読み”世界診断 (19) 日本破綻なら海外逃亡? - 『ミス・サイゴン』が教える”国を捨てる”事の意味
そういった伏線もあってか、そして本田さんを始め、演者の皆さんの歌声に魅かれて、このミュージカルに何度となく足を運びました。
今回の公演で当時と同じ配役なのは市村正親さんだけのようです。
彼が演じるエンジニアはひたすら「アメリカン・ドリーム」を追い求めるベトナム人という役どころです。
軽佻浮薄(けいちょうふはく)で打算的、それでも憎めない存在となっているのは、その明るい無節操さも、風見鶏であることも、長らく戦時下となったベトナムの困窮から、底辺で生きる人たちが抜け出すためには必要だったはずと、観る者を納得させるからでしょう。
上り詰めてみせるというハングリー精神も、そこまでやれば「あっぱれ」と言わざるをえない。
決して褒められたものではないのですが、強靭なまで信条が高い理想のように思えるのですから不思議なものです。
そして役者の力量は恐るべしです。
こうした難しい役回りの多いミュージカルであるがゆえに、本場のロンドンやニューヨークではいったいどんな役者の方がどのような演技をされるのかと興味が沸きました。
「ミス・サイゴン」の国際比較には足掛け数年を費やしましたが、ロンドンのドリューリーレーン劇場にも、ブロードウェイ・シアターにも行って参りました。