読書で味わう食欲の秋【TheBookNook#10】
そう、物語に大きな山場などなくていいのです。“普通”であることがどれだけ尊いか、肩の力を抜いて生きるヒントを真っ直ぐな語り口調で群さんは私達読者に教えようとしてくれます。文字だけの小説だからこそ伝わることは本当に多くあります。
きっと読後はあなたも、アラビアの綺麗な青いお皿におにぎりを置いて食べたくなるはずです。もちろん、塩おにぎり。
2.髙田 郁『みをつくし料理帖・八朔の雪』
全十巻の連続時代小説のシリーズ一作目となるこちらの作品。つい先日、家で心太(ところてん)を食べる機会があり、ふと本作を思い出しました。
幸せを足踏みするほど苦労続きの主人公が、自ら唯一の奉仕の道とする“料理”で、ひたむきに、ひたむきに、恩返ししようとする姿、その周りにいる人々、その全てがあまりにも愛おしくて、抱きしめたくてたまらなくなります。
また、登場する食べ物の表現が時代を感じさせないほど食欲をそそり、地域ごとの味の違いやレシピ、豆知識等もちりばめられており、まさに“食”の本。
一話ごとに読み切りとなっているため、連続時代小説だからといって敬遠せず、ぜひお手に取ってみてください。無性に茶碗蒸しが食べたくなりますよ。