読書で味わう食欲の秋【TheBookNook#10】
3.小川 糸『あつあつを召し上がれ』
小川糸さんらしい馴染みやすい文章で綴られた食卓をめぐる7つの短編集。いずれも憂いを含む内容でありながら、絶品料理のおいしい記述でほっこりしてしまいます。
生きることは食べることであり、味覚と思い出は密に繋がっていると感じさせられると同時に、味や香りだけではない、景色や感情で覚えている思い出の一皿が誰にでも在り得るという“今日までの幸せ”を考えさせられました。
忘れてしまった“忘れられない味”の記憶をたどって思い出せることは、始まりよりも終わりの方が圧倒的に多く、切ない気持ちにもなりますが、それでいいのです。
もう食べられない味、触れられない人、知ることができないレシピ。全部全部、ちゃんと思い出して、思い出にできたら、いいと思うのです。今度こそ忘れないように……。
■五感で味わう“食”小説
いかがだったでしょうか? 世の中には味わい深い“食”小説が読み切れないほどに溢れています。ぜひ、綴られた文字をただ読むだけではなく、耳で、鼻で、心で、作家さんが紡ぐ一皿を思う存分味わってみてください。
おいしい匂いがただよってくるようなあなただけの素敵な一冊が見つかりますように。