©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017
おませで陽気な5歳児・野原しんのすけが活躍する国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』。
1990年に漫画連載がスタートし、1992年にアニメ化。その翌年から劇場版が毎年公開され、記念すべき25作品目『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』が4月15日にロードショー!
今回は、本作で監督・脚本を務めた橋本昌和さんにインタビュー。『クレヨンしんちゃん』ならではの作品作りの過程から、意外と(!?)深いストーリーの背景まで、じっくりとお話を伺いました!
映画公開10日前に監督・脚本を務めた橋本昌和さんに取材をさせていただきました。
■前作のヒットは関係なし!常に新しさを求める作品作り
――『映画 クレヨンしんちゃん』は、今作で25周年。長い歴史がありますが、橋本監督が作品に携わった経緯を教えてください。
「僕がクレヨンしんちゃん作品に関わったのは、2008年の『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』から。
本郷みつる監督に『絵コンテやらない?』と声をかけていただいたんです。
本郷さんとはよく一緒にお仕事をしていたので、どんなテイストで作品を作っているのかよくわかっていたこともあって、作品には入りやすかったですね。その後、『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』(2011年)などを手伝った後、『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』(2013年)で初めて監督をやりました」
『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』(2013年)
――お客さんとして観ていた作品に関わるというのはどんな気持ちですか?
「不思議な感じがします(笑)。普通に観ていた作品なので、今度は僕が作り手になるんだって。オリジナルを立ち上げるのとは違う、特別な感じがありますよね。
しんのすけのキャラクターは一本通っているものがあるけど、作品としてはバラバラ。“去年ウケたから、また同じことをやろう”ではなくて、“去年ウケたけど、今年は違うことをやろう”って。
ヒットしてもしなくても、新しいことをやる。
むしろ、今までやってないことをどれだけやれるかっていう現場なんですよね。
似たような作品が続くことがないので、25年やってきても古い感じがしない。それは、変わらない部分がありつつ、時代に合わせて変わっていっているからというのもありますね。初期の作品を観ると、今まで気付かなかった新しさがある。
もちろん作品としての決まり事はあるけれど、監督をやる時にも『こういう作品なので、引き継いでください』というのは、まったく言われませんでした」
『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(2015年)
■しんのすけが言うからこそ、心に響く名言の数々
――しんのすけは25年間5歳のままですが、キャラクターとして変わってきたところはありますか?
「(しんのすけ役の)矢島晶子さんは、昔に比べて今のほうが早口になっているとおっしゃっていました。昔より時代のテンポが早くなっていたり、情報量が増えていたりっていうのもあるかな。
お客さんからはあまり変わっていないように見えて、台詞もニュアンスが変わってきているはずです。そうでないと、違和感が出てきているんじゃないかと思いますね」
――橋本監督から見て、変わらないところはどこですか?
「やっぱり、しんのすけのキャラクターですね。
斜に構えたというか、ものすごく受け身なんです。事件が起きても、別に解決しなくていいじゃんって。それが主人公だっていう特殊さがありますよね。主人公が成長しないのが大前提みたいな(笑)。
しんのすけのキャラクター性作品を作る上で大きな軸になっているし、それさえ守れば毎回まったく違うことをやっても、しんちゃん作品になるんです」
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017
――しんちゃんには、名言が多いとも言われていますね。
「そうですね。常に平常心だから、たとえば『オレは正義だ!』みたいなヤツが出てきても、『本当にそうなの?』って冷静に言える。常に等身大の目線を忘れないので、怪しい人が出てきても『それはおかしくない?』って、自然に言えるキャラクターなんです」
――しんちゃんが言うからこそ、響く部分がある気もします。
「しんのすけは特別なヒーローじゃなくて、どちらかと言うと我々側の人。5歳、いわゆる子どもとっいう身近なポジションにいるから、観ている人も、自分たちが頑張っているっていう気持ちになれるのかなと思います」
――大人にしか、絶対わからないような台詞やギャグもありますよね?(笑)
「そうですね(笑)。もともと原作が青年誌というところがあるので、大人向けのギャグも多い。そのテイストと子どもに向けの部分をうまくミックスしていると思います。絶対子どもにはわからないギャグが入っていても、作り手に『子どもにはわからないからやめましょう』って言う人はいないんですよ。
むしろ、みんな自分がおもしろいと思うものを入れたがる(笑)。もちろん子どもを意識しているので大人向けの作品にはならないけれど、子ども子どもした作品にはしていません」
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――それって、クレヨンしんちゃん特有のことかもしれませんね。
「バカバカしい部分とまじめな部分をごっちゃにして作ることが許されているというのがおもしろいですよね。
ケツを出すみたいなギャグと、現代社会の風潮とかを同時に入れることに誰も違和感を持ってないっていう(笑)。
観る方も、“しんちゃんだし、そういうものかな”と思うし、作る方も、『今回のテーマは…』というまじめな部分と、『ここでお尻を出しましょう』というギャグの部分を同じレベルで話しているので(笑)」
――(笑)。では、しんちゃんの映画だからこそ難しいところはありますか?
「一番難しいのは、しんのすけのキャラクターを動かすこと。セオリー通りに動かないですからね。いつも平常心で、感情的に『よし、行くぜ!』と盛り上がっていく感じがないので、どうしたら最終的にしんちゃんになるんだろう…という難しさがあります。
あとはテレビシリーズが続いている中で映画をやっているので、たとえば“みさえとひろしが離婚しました”というエンディングにはできない。映画としては変化があるほうが作りやすいけれど、日常から始まって日常に戻らなくてはいけないんです。
さらに、そこにしんのすけという変わらないキャラクターがいる。
なので、どう変化をつけて、ドラマを盛り上げていくかということを毎回悩みますね」
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■ “逃げ出してもいいんだよ”…映画を通して伝えたいメッセージ
――『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』では、なぜこのテーマを選んだのですか?
「宇宙人との関わりの中で、野原家の寛容さが出るといいなというのがありました。自分たちとは全然違う生物が来たときに、『まぁ、いっか』と受け入れちゃう心の広さを出したいな、と。最近の排他的な世の中に対して、野原家は全然違うんだという魅力を伝えたかったんです」
――目的地にたどり着くまでにも、野原家らしい行動がたくさんありますね。
「基本的に、まっすぐ目的地に向かう人たちじゃないんですよね(笑)。お風呂なんて入らなくても良いし、お弁当も食べている場合じゃないんだけど、日常の中ではとても大切なこと。
目的地にまっすぐ進んで事件が解決するのではなくて、無駄に思えることの積み重ねが、最後に起こる事件を解決する糸口になったらいいなと」
「シリリは見た目の可愛さで救われていると思われたくなかったので、あまり可愛くしないでほしいとお願いしました。見た目にとらわれずきちんと話せば相手を知り、受け入れることができると伝えたかったんです」(橋本昌和さん) ©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017
――なるほど。
シリリのお父さんも謎が多いですよね。悪人ではないのかな?とは思うのですが…。
「『世界を支配してやる』という、いわゆる悪人ではないんですよね。完全に悪人であれば倒せば良いだけの話ですが、そんなにわかりやすい悪って日常生活にはあまりいなくて。一般的には良い人だと思われているけど、自分にとっては苦しい存在という見えにくい悪のほうが、実際には多いんです。
そういう人に対して、時には逃げ出してもいいし、距離を取らなきゃいけない時には離れたほうがいいんだと、リアル過ぎずに描きたかった。だからシリリの父は“映画的な悪人”ではなくて、“日常の中によくいる悪”みたいなものに寄せたいなというのがありました」
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017
――逃げ出してもいいという感覚は、今作を作る上で考えたことですか?
「そうですね。野原家って、すごく良い家族じゃないですか。でも現実的には家族で悩んでいる人もいる。だから、そういう人にとって“家族って最高!”ということだけでは辛いだろうなって。家族の問題は、身近だからこそ回避できない重さみたいなものがあるんですよね。
野原家は、みんな意外と自分勝手。しんのすけは自分の行きたいところに行っちゃうし、ひろしは家族を守るとていう責任感はあるけど、キレイな女性に会うと鼻の下を伸ばしちゃう。でも、お互いに個性を認め合って信頼しているという距離感が、野原家の良さだと思うんです。
逆にシリリは、“お父さんの言うことを守るのがいい家族だ”という縛りのキツいちょっと古い日本の家族という気がします。野原家の良さがそれで引き立つということもあるし、悩んでいる人には、そこから離れてもいいんだよと伝えられたらと思っています」
「みさえとひろしを25歳若返らせたことで、みさえって結構若かったんだとか、ひろしとみさえってこのくらい年の差があったんだというのが表現できたのは、意外な発見でした」(橋本昌和さん)
――では、橋本監督が今後のクレヨンしんちゃんに望むことはありますか?
「今後、僕がしんちゃん作品にどう関わるかというのはまだわからないことなので一ファンとしてですが…この後もずっと続いてほしいです。大袈裟にいうと、また25年後が観てみたい。
これから先も、しんちゃんの映画を見返せば“あの時代はこうだったな”とか、世の中の変化が見えてくることもあると思うし、これからも守りに入らないで時代に合わせて好き勝手やっていってほしいですね。どんどん変わっていくことが、おもしろさでもあると思うので」
――最後に、パパ・ママ・子どもたちへのメッセージをお願いします。