ドレスドアンドレスド 2025年春夏コレクション - 水と記憶
ドレスドアンドレスドを象徴するテーラリングは、その構築性でもって明晰なフォルムを描きだす点で、自己を析出させる特権的な例である。シングルブレストとダブルブレストのテーラードジャケットは、セットインショルダーによる端正なシルエット。ふと、テーラリングとは装飾をことごとく削ぎ落とし、理想的な身体を造形化するものであることを思い出すのならば、ドレスドアンドレスドにおいては、誰もが夢見るからこそ誰のものでもありうる非人称的なフォルムが具現化されている、とでも言うことができるだろう。
テーラリングの明晰さはしかし、その造形を浮かびあがらせる非人称の曖昧さ、ある種のグラデーションを、奥深くに宿している。ハリのあるウールギャバジン、かすかな起毛を感じるコットンモールスキン、そして細波のような凹凸を持つサテンという、テーラリングに用いた素材の多様さばかりでない。ブラック、ダークグレー、ライトグレーというカラーパレットに、モノトーンの繊細な階調が現れているのだ。あるいはバルカラーコートは、袖先に同色のライニングを覗かせ、外側と内側という境界を、あくまで柔らかく侵してゆく。
つまり、今季のドレスドアンドレスドには、自分というものが立ち現れる手前にある、曖昧な領域を感じとることができる。