2022年9月11日 08:00
時にはゆっくりと歩みを緩めて、これまで見えていなかったことに目を向けてみる
空を指差すように朽ちた木の幹。足元を確かめるように、一歩進むたびに見えてくる光景を確かめるように渓流沿いを歩きます。
すぐ近くの木で蝉が鳴いていました。どの木で鳴いているのだろうと見上げて、見回します。でもそう簡単に見つかるはずもありません。
そして鳴き声を頼りにふっと目線の先にある細い木を見てみると、翅(はね)がぼろぼろになった蝉が止まっていました。エゾゼミという焦茶の体に山吹色の紋様が入った蝉です。
私が近づいても飛び去る気配はなく、ギーンギーンと力強く鳴いています。
翅を震わせながらギーンと鳴きます。夏の終わり、傷ついた体を精一杯震わせて力強く鳴いています。
ひとしきり鳴くと、次はお尻を持ち上げるようにしてギイィーン、ギイィーンと鳴き始めました。そして、ゆっくり木の枝を登ったり、下りたり、心地のいい居場所を探すように動いています。
今にも力尽きてしまいそうな体のどこに、あんなに大きな声を出す力が残っていたのでしょうか。
暑い暑いと言っていた夏が終わります。ひと色ではない渓流の流れのように、人生もさまざまな流れに巻き込まれ、流れに乗りながら時を重ねていく。
思っているよりも、その流れは速いものだとひと段落した暑さに思います。