になった。そして毎年4回、大きな祭典が行われるたびに伊勢神宮に足を運んできた。
’12年の式年遷宮では、池田厚子さんを補佐するため、黒田清子さんが臨時祭主になったのだが、そのときのことを語る登美子さんの表情はひときわ明るい。
「祭典の前に、黒田さんがご装束を見たいということで、私も東京に行きまして、着付けのため宮中に上がりました」
装束姿の黒田さんを囲んで、写真を撮ろうというときだった。
「お部屋に、天皇陛下がおいでになったんです。美智子皇后も」
登美子さんの頬が、ふわっと赤らんだ。長年の努力が実ったかのような喜びに満ちていた。
「陛下から、『きれいにしてくれて、ありがとう』とお言葉をいただきました。
美智子皇后もニコニコされて、とてもうれしそうでした。そして、ふと私の帯を目にされたんです。人間国宝の細見華岳さんのつづれ織の帯を締めていたんですけど、『ああ』というお顔をなさったから、おわかりになったのでしょう。この上ないお言葉を賜ったこと、そして皇后様との出来事は、私の一生の思い出です」
黒田さんは、’17年から伊勢神宮の祭主となり、登美子さんは引き続き現在もおつとめしている。