冒頭のAさんもその一人だ。
ゆかりさんの本業は美容師で、美容院を経営している。相談は、すべてボランティア。相談メールに返信するのは、深夜になることもある。それでも対応するのは、“性虐待”を受けた被害者の心理が、あまりにも社会に理解されていないからだ。
今年に入ってからも、19歳の実の娘に性虐待を続けていた父親に対し、名古屋地方裁判所岡崎支部は、無罪判決を下した。裁判官は「抵抗できないほどの暴力や、心理的極限状況に追い込まれていたわけではない」と判断した。
「幼いころから性虐待を受けていたら『抵抗してもムダ』という気持ちになるんです。
しかも、彼女には2人の弟がいた。父の性虐待が世間に知られて仕事を失ったら、弟たちが生活できなくなると心配していたといいます。なぜ、そういう被害者の心理が理解できないのでしょうか」
’17年7月、110年ぶりに性犯罪に関する刑法が厳罰化された。しかし、多くの問題が残っている。抵抗できないほどの暴力や脅迫があったと証明できないと罪に問われないなど、被害者側にとって立件のハードルが高いままだ。「被害を誰かに打ち明けたときに、『抵抗できたはず』『どうして周りに相談しなかったの?』などと言われると、<私が悪かったんだ>と、自分を責め続けてしまいます。