端役人生70年、加藤茂雄さん「僕の俳優人生は黒澤明監督のおかげ」
それで、つぶしが利いたんだな。いろんな監督さんから、たくさんお声がかかったよ」
こう言って自嘲気味に笑う加藤さん。当時の異名は「ロケ男」。
「東北のロケが終わって上野に帰ってくると、『その足で三重に行け』とか『そのまま九州の現場に入ってくれ』とか。誰もまねできないぐらい、重宝されてたんだ」
『宮本武蔵』(’54年)では稲垣浩監督と、『ゴジラ』(’54年)では本多猪四郎監督と、『独立愚連隊』(’59年)では岡本喜八監督と、きら星のごとき名監督たちのもとで芝居を続けた。なかでも、加藤さんが「この人は別格」と話すのが、あの黒澤明監督だ。
「僕は最初、黒澤監督の『生きる』でセリフをもらったんだ。市役所の下っ端職員の役だった」
出演者全員で台本を読み合わせる「本読み」。
初のセリフがある役に、加藤さんは少々気負っていた。
「ほんの短いセリフのチョイ役だというのに、挙手して演技プランをぶち上げてね。黒澤監督や主演の志村喬さんも笑ってたと思うな。あれは、いま思い出しても恥ずかしくて汗が出てくるよ(苦笑)」
青くさい大部屋俳優を、巨匠は気に入ったのかもしれない。