2021年10月31日 06:00
トキワ荘の紅一点 水野英子語る「24時間マンガ漬けだった日々」
と同時に、トキワ荘に1室、空きが出た。
58年3月、上京を心配する祖母を「3カ月だけ」と説き伏せ、水野さんはバッグ1つで汽車に乗り、トキワ荘の住人となった。
おかっぱ頭に丸眼鏡、ジーンズ姿の水野さんを出迎えたのは、色白でほっそりした青年だ。
「いらっしゃい。赤塚です」
赤塚は、水野さんの部屋を掃除しておいてくれるなど、なかなか気の利く青年だった。石ノ森は顔一面にニキビが満開。手塚治虫にあやかってか、茶色のベレー帽をかぶっていた。
「おふたりの作品を『漫画少年』で見ていたためか、初めて会った気がしませんでした」
赤塚の母親が何くれと世話をやいてくれ、炊事も担当。
時間になると3人分の食事ができている。水野さんはマンガだけに専念できた。
「24時間マンガ浸りの生活は天国のようでした。とにかく私は描いてさえいられれば幸せですから」
石ノ森の姉、藤子不二雄両氏の母や姉も、付き添っていたという。トキワ荘には思いがけなく多くの女性が出入りしていて、ホッとしつつ、伸び伸びとマンガに没頭できたようだ。
「石ノ森さんの部屋はいつも乱雑で、ちゃぶ台もありました。石ノ森さんが机に向かい、私と赤塚さんはちゃぶ台で、顔を突き合わせて描いていました」