2021年12月5日 06:00
西成の劇団むすび「看板女優」になった92歳でゲイのおじいちゃん
そんな西成で、独居の高齢者たちが中心となって活動しているのが「紙芝居劇むすび」だ。一般的な紙芝居と違い、複数の演者がそれぞれの役に扮してセリフを朗読するユニークな手作りの紙芝居で、福祉施設や保育所などで定期的に公演を打つ。町のイベントにも欠かせない存在で、この日も、とある高齢者施設での公演だった。
むすびに3年前に参加し瞬く間に“看板女優”となったのが、先述の女将役を演じていた御年92歳のおじいちゃん・長谷忠さんだ。
「僕がな、女性の役を演るのは、性に合ってるのよ」
じつは、長谷さんは同性愛者だ。物心つくころには、男性として生まれた自分の体に違和感を覚えていた。初めて好きになった人は、小学校の男性教諭だった。
「僕はな、中途半端なんや。
男は男だけど、男になれない。半分男で半分女、そういう生活をひとりで、ずっとひとりでしてきたのよ」
本人の言葉は少し寂しげに聞こえるが、少なくとも現在の長谷さんは、寂しくもないし、孤独でもない。「ちょっと長谷さん、演出変わったわ」
本番直前、前出の女性劇団員がまた、声をかけてきた。
「あんな、その衣装の下に、これ着とってな」
手渡されたのは1枚のTシャツ。