元日の地震で被災は3度目…輪島塗「藤八屋」を何度でも立ち上がらせる思い
お取引先の鰻店の社長は、太くて立派な梁を贈ってくださったんです」
正英さんは「みなさんに助けていただいて、本当にありがたかったです」と、何度も頷く。こうして’10年、藤八屋本店は再建された。寄せられた善意に応えるように、2人はなんとも贅沢な店舗を造り上げた。太い梁や柱、床や壁板にも漆をふんだんに使ったのだ。漆を拭いたのはもちろん正英さん、それに藤八屋の職人たち。スマートホンの中に残された往時の本店の写真を見せながら、純永さんは嬉しそうに、懐かしそうに振り返った。
藤八屋が手がける漆器の、「上塗」と呼ばれる最後の仕上げは、必ず正英さんが行っている。そして、純永さんはその一つひとつに蒔絵で「輪島藤八作」とサインを入れるのだ。
純永さんはしみじみとした口調でこう教えてくれた。
「漆器を出荷するときは私たち、わが子をお嫁に出すような気持ちです。そのおうちでかわいがってもらいなさいね、と」
建物全体が輪島塗の芸術作品だった藤八屋本店。2人にとってそこもまた、自慢の子供のような、大切な存在だったに違いない。
10年先も堅牢でお客様から喜ばれるものを作り続けていたい
大禍を乗り越え、やっとの思いで再建した店が、あろうことか今年1月に発生した能登半島地震によって全焼してしまったのだ。