「塗れたぞ!」…輪島塗老舗が踏み出した、能登半島地震から復興への一歩
ここも、藤八屋の漆器を使う名店の一つだ。正英さん、純永さんが作る器を愛用している彼らにとって、今度の被災はまさに自分ごとなのだ。正英さんは少しだけ?を緩めると、こう言葉を継いだ。
「そうですね、だから『一刻も早く、仕事を再開してくれ。頑張って続けてくれ』と言われます」
そして3月25日。正英さんは山本町の工房で、仕事を再開した。そのときの率直な感想を尋ねると、正英さんは照れ隠しなのか、こんなふうに答えた。
「いや、勘は少し鈍っていたし、しばらく使ってなかった部屋が冷え切ってしまって、漆がなかなか乾かなくて、難儀したね」
横で聞いていた純永さんが、夫の気持ちをこう明かしてくれた。
「だけどお父さん、ほら、初めて上塗が終わったのが4月の最初のころだっけ、わざわざ私のところまで来て言ってたじゃない。『塗れたぞ!』って、すごく嬉しそうに言ってたじゃない」
妻の言葉に、夫は頭をかいた。
「やっぱりね、日常というのはありがたいです。日常の仕事ができる、それだけで……、幸せですよ」
“いいものを作り続けて、輪島塗を守る――”、輪島の地で苦難を乗り越えながら重ねてきた年輪、そして希望が、「藤八屋」の漆器には塗り重ねられている。
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