シリア人夫亡くした日本人学者が実行する、シリアのためにできること
彼女らにとって刺繍は、すぐに生きがいとなった。
「刺繍をしている時間だけは、紛争の恐怖やつらさを忘れられる、と女性たちは言います。逃げるときは、針と糸を必ず持っていくとも」
彼女たちが、自らの稼ぎで我慢していた口紅を買ったり、家族と少しだけごちそうを食べたと聞くと、山崎さんはホッとする。
「糸などの材料と売り上げを日本から送り、それでシリア人女性たちが刺繍したワッペンや“くるみボタン”などの商品を送ってもらうシステムですが、いずれ国の状況が安定したときには、彼女たちのビジネスとして自立してほしい」
ちなみにシリアでは労働者の日当が1日100円単位という場合もあるなかで、“くるみボタン”の500円という収入は、大きな糧に違いない。
あるとき、「生命の樹」というタイトルの刺繍が送られてきた。50センチ四方の大判の布地に、刺繍で描かれた1本の木。周囲には赤、黄、オレンジ、紫など色鮮やかな花が咲き誇っていた。
「古来から、メソポタミアには、生命を1本の樹木にたとえる思想があるんです。