「女将さん会」会長が小池都知事に伝えたい築地と豊洲の違い
タイさんには、忘れられない出来事がある。
「もう20年以上前でしたが、親しい人が病気になって、私はすごく落ち込んでしまって。そのとき場外のスーパーを経営する奥さんに、『近所にはみんないるんだよ。なんかあったら、声をかけてね』と言ってもらえて。それで、すごく明るくなれたんです」(タイさん)
家族や一緒に働く人たちと半世紀以上を築地で過ごしてきたタイさんだからこそ、見えている景色がある。
「壁がないんです。ほら、うちの周囲を見てもわかりますが、お店が仕切られていなくてつながっている。ふだんから、『氷、ちょうだいね』とか、『もらうわよ』と声をかけながら、パッと手を伸ばして隣の青い包み紙を借りたりね」(タイさん)
その遠慮のなさも、先代の義母から自然に受け継いだ、ふだんのほどよい距離感があってこそ生きるもの。
「豊洲に行くと1軒ずつ、壁で仕切られた設計です。移転で、単に壁ができるだけではなく、それは綿々と受け継がれてきた、築地の文化がなくなってしまうことなんです。そのよさも小池都知事にお伝えしていきたいですね」(タイさん)