天国に旅立った恩人へ… 感謝とお詫びのLINE(辻仁成「ムスコ飯」エッセイ)
そして、あんなに世話になったのに、彼に会うのが怖くてまた足が遠のきました。
ところが日本から親しい友人が来て、何を思ったのか私はタケさんの店に連れて行くことになりました。それで話が済めばいいのですが、たまたまその親友とタケさんの前で大喧嘩をしてしまったのです。翌日、タケさんに電話を入れて謝りましたが、ええねん、気にせんで、また来てください、と笑ってくれたのが最後のやり取りになってしまいました。
こういう後悔って残酷すぎます。いちばん世話になった人との最後の瞬間を汚したのが自分なのですから……。悔やんでも悔やみきれません。心配だから励ましに行ったつもりが、その真逆なことをしでかしてしまった自分への怒りはおさまりません。
謝りたくてももうこの世にいないんです。他に方法がなく、タケさんに「ごめんなさい」とLINEを送りました。するとびっくりすることに既読になったのです。その瞬間、涙が溢れ出ました。たぶん、パートナーの方が読まれたのでしょう。
「ええねん、ええねん、辻さん、気にせんといてや。また、店に来てくれたらそれでええねん」