2021年6月20日 12:00
市川中車「歌舞伎の舞台にこそ、生きている実感があるんです」『七月大歌舞伎』で4度目の秀の市
ところがどれほど稽古しても、それでも舞台本番で何かしら間違えてしまうんです。ふたりでトンテンカンテンとやっていると三味線や鳴物の音がずれて聴こえることがあって、僕が間違ってしまって。四代目とクルリと位置を入れ替わるとき、”すみません!”と小声で謝ると、四代目が”え~~~~!”と(笑)。それでも何も間違えていないかのようにフォローし合う。これに痺れて痺れて。父(市川猿翁)と(市川)段四郎の叔父とが踊ったときもこういう瞬間があったのかなと想像しましたね。ふたりで相槌をトンテンカンテンと打ち合う、行のような不思議な時間でした」
僕の中に間違いなく歌舞伎の血が流れている
歌舞伎の世界に入り、丸9年。時代物、世話物、古典に新歌舞伎、様々な演目に出演してきた。
「時代物の修業を経ていない役者が世話物を演るわけですから、問題点が噴出してしまいました。よりどころとなる型がない状態では、どんなに稽古しても大海原で迷っている船のようなもの。稽古する膨大な時間を絞り出せるのなら、時代物の方が世話物よりは安定したものになるとは思います。でも今は両方とも難しいと感じている段階で、何ひとつ会心の出来と思えるものがない。