新鋭・五戸真理枝の演出で『どん底』がどう現代に息づくか
その中でも『どん底』がすぐテーマに結びつく感じがしました」
とはいえ五戸自身、手放しでこの戯曲のファンとは言い難く、「過去に上演された舞台の映像資料などを観ても、“100%面白い”とは言い切れなかった」と率直に言う。
「暗い場面が続くし、長ゼリフも多いし、ちょっと眠くなるような場面が多いなと思いながら(笑)私も観ていました。でもそれは上演のやり方次第なんじゃないかなと。ゴーリキーがつまんないものを書くはずがないみたいな(笑)、作家を信じたい気持ちが強かったんです。作家は絶対面白いと思って書いているはずなんですよ。だから何を書いているのか、自分でこの戯曲を洗い出してみたいという気持ちがすごくありました」
そうして、好奇心と作家への強い信頼を抱いて作品に挑んだ結果……さすが、文豪・ゴーリキーはその信頼を裏切らなかった。
「立ち稽古を始めてから発見することがすごく多かったんですけど、ひとつは、ゴーリキーがものすごく真実に忠実に書いているということ。セリフや人物像の装飾が少ないんです。
セリフを美しく飾ったり面白いキャラクターを出して面白い芝居にするっていうのはある程度技があればできちゃうことなんですけど、それをせずに、まっすぐ真実を描いている。