新鋭・五戸真理枝の演出で『どん底』がどう現代に息づくか
「本当に生で話しているような会話が稽古で作り出せたとしたら、それだけで面白いはずなんです。稽古では、生々しい会話にするために一言にこだわって、それを発した細かい思考回路まで話し合っているという感じ。“セリフのようなセリフ”を排除していく作業なんですけど。でもそうしたときに、またゴーリキーの凄さに気づきますね。セリフの順番とかが計算しつくされていて、抜けるようなところがないんですよ。その作劇術も舞台上でしっかり立てばいいなと思っています」
理路整然と穏やかに語る口調の端々から、戯曲と作家への愛情が滲み出てくる。“手放しのファン”となった演出家の体を通して生まれた新たな『どん底』の世界を、早く覗いてみたい。
「ゴーリキーはこの世の中をどう変えなきゃいけないとかいうことは一切言っていないんです。
その代わり、苦しみを苦しみのまま描くことで、登場人物たちの存在を認めている感じがして。この温かさが今の日本に暮らす私たちにも必要なのかもしれないと思います。どこか絶望的というか、“自分なんか”と思っている人たちが多い中で、その人たちが“そのままでいい”っていうほんのちょっとの自信を持てば、それだけで楽になるんじゃないかなという感覚があります。