閉じられた本の中は暗く、 空気のない状態であるけれども、 一度開けば、 開かれたそのページには光が差し、 文字が目に触れる。 実際に声で発することがないとしても、 言葉は自身の声、 あるいは登場人物の声として響き、 音響が身体の内に広がっていく。 身体は次第に前のめりになり、 本の中に没入し、 落ちていくような感覚をおぼえる。 その身体は本の中に浮遊し、 徘徊し、 俯瞰し、 会話するーー。
ところが、 読書する者が本から離れ、 言葉が途切れ、 その響きがなくなると、 自由を削がれたかのようにその身体は固まり、 息苦しくなる。 現実の時間感覚に捕われ、 支配されてしまう。 つまり、 読書の中にいる時より、 現実のほうが不自由になってしまう。 しかし、 その状況は逆転し得る。 読書している時の感覚が、 読書をしていない時に再現されれば、 現実はどんどん豊かになっていくーー。 そうも考えるのです。
v■佐東利穂子
劇場にはその場所ごとに個性、 特徴があるけれど、 近頃はずっとアパラタスでの活動を続けていただけに、 シアターXの空間で公演をすることをとても楽しみにしていました。 というのも、 ここは創作に集中しやすい場所であるとともに、 舞台と客席との距離が近く、 そこを行き来することで作品の題材をあらためて見直したり、 新鮮な気持ちで見たり触れたりすることが、 比較的容易にできる場所なのです。
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