大島渚賞に輝いた小田香監督、新作『セノーテ』では神秘の泉の世界へ
それで自分の心の葛藤にアプローチしたんですけど、このときは映像や映画、記録することの可能性や危うさをまだ自分でもよくわかっていなかった。そのことを後悔はしていないんですけど、もうちょっとうまいやり方があっただろうと今も思う。確かに家族を特に母親を傷つけたことは間違いなくて、しこりが残ることになってしまった。
そのあと、(タル・)ベーラのもとで学ぶことになるんですけど、このころは自分が興味をのもったものを撮影しようという方向に意識が変わったんですね。それでまず『鉱ARAGANE』が生まれた。
ただ、日本に戻ってきて、これからも映画制作を続けていきたいと思ったとき、『ノイズが言うには』できちんと整理できなかったことの後始末をつけたいと思った。それでできたのが『あの優しさへ』で。いまは正直なことをいうと、『ノイズが言うには』のころに抱いていた、自分がセクシャル・マイノリティであるといった個人的な葛藤はない。
『あの優しさへ』で整理することができた。なので、いまは自分の心の内ではなく、外に目が向いています。ただ、日々、わたし自身、生活しているので、10年に1回かどうかわからないですけど、なにか葛藤は出てくるかもしれない。