という感じなんですよね。あるいは、神の言葉がスラスラ出てくる御神託のような。それでも《ゴルトベルク変奏曲》には人間的な息づかいを感じるけれど、《フーガの技法》や《インヴェンション》などは本当に自然そのもの、川の流れを眺めているような気分になります。
僕はたまにラジオを4台ぐらい同時に鳴らして、その真ん中に座ってサラウンドで聴いたりするんだけど、突然、すべてが合う瞬間があるんです。そういうとき、なんだかすごくグッとくる。バッハの場合は、グッとくる瞬間がわりとしょっちゅう訪れるんですよね。教会に集まる民衆の心を掴んで、神に向けて上らせていく術を体得していたのでしょうね。
――バッハは教会の毎週の礼拝のために、たくさんのカンタータを書いていましたからね。
もはや織物みたいなものだよね、職人のように、ひたすらテキスタイルを紡ぎ上げていく。織物は実体として残るけれど、音だと空気に滲んでなくなっていくというところがまたいいですよね。
――バッハの音楽を新しい視点で捉え直すという意味においては、オラフソンさんも同じかもしれないと思うのですが、彼の演奏は聴きましたか?
ええ、最近リリースされたばかりの《ゴルトベルク変奏曲》のアルバムも聴きましたよ。