大竹しのぶが、10年ぶりに取り組む林芙美子──こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古場レポート
ちょっとしっとり、同時にザワザワもする調べに続いて、6人の俳優たちによる登場人物紹介の歌「ドン!」(原曲はリチャード・ロジャース)が、その場を物語の世界へと一気に引き込む。井上ひさしの音楽劇ならではの“はじまりはじまり!”。まだ幕は開いたばかりなのに、演じ手の個性がそれぞれに爆発、センターに立つ大竹の、ヒロインらしいキラキラした存在感とごちゃ混ぜになりながら、力強く迫ってくる。
こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古の様子(撮影:宮川舞子)
続く場面は東京、下落合の芙美子の自宅の茶の間。芙美子に『放浪記』を題材とした流行歌の歌詞を書いてほしいと依頼したが、なかなか書いてもらえずにいるレコード会社の三木孝と、彼が来るたびに出前を取ったと嫌味を言う芙美子の母、キクとのやりとりが、早くも可笑しい。三木を演じる福井晶一はこまつ座初登場。その揺るぎない歌唱力と存在感で、どこか胡散臭いキーパーソンを魅力たっぷりに演じていく。キク役の高田聖子もこまつ座初登場、劇団☆新感線で演じる悪役や姉御肌のキャラクターとはうって変わっての老け役だが、背中を丸め、腰も曲げながらも溌剌と、表情豊かに、パンチのきいた台詞を放つ姿がとてもチャーミング。