大竹しのぶが、10年ぶりに取り組む林芙美子──こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古場レポート
そこに原稿を──といっても、三木の依頼とは別の原稿を書き上げた芙美子が登場。「歌詞のほうは?」と恐る恐る催促する三木に、「むずかしいことはあとまわし」と言ってのけたり、『放浪記』に出てくる詩をつぶやくキクに「いつのまに字が読めるようになったのよ」と返したり、そんなごく短いやりとりの中で、自由奔放かつ闊達、テンション高く勇ましく前進する人気作家、林芙美子という人物が、グンと立体的に飛び出してくる。
こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古の様子(撮影:宮川舞子)
外に出た芙美子の留守中に、今度はキクを「お師匠さん」と呼ぶ二人組の若者が登場。近藤公園演じる土沢時男と、土屋佑壱演じる加賀四郎は、尾道にいた頃のキクの行商人仲間だ。この3人が、「行商隊の歌」(作曲:宇野誠一郎)で行商人のたくましい暮らしぶりを生き生きと、またユーモアたっぷりに歌い上げ、笑いを誘う。高田、近藤、土屋がこの勢いで行商にきたら、確実に買ってしまう。
こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古の様子(撮影:宮川舞子)
その後も、物語の進行とともに心に響く歌が次々と登場。結局、自らの手で『放浪記』をもとに歌詞を書き上げた三木が歌う『女給の歌』では、数々のミュージカルの舞台でキャリアを重ねてきた福井の、その豊かに響く声にしばし心を奪われる。