大竹しのぶが、10年ぶりに取り組む林芙美子──こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』稽古場レポート
「Once upon a Dream」──チャイコフスキーのバレエ音楽「眠れる森の美女」の夢見るようなワルツの旋律に、『放浪記』のエピソードをぎゅっと詰め込んだ楽しげな歌詞。客席のハートをがっちり掴むに違いない。三木はその後日本放送協会の音楽部員となり、さらには内閣情報局へと出向。作家として先行きが見えずにいる芙美子に、「いくさはもうかるという物語」とそそのかし、従軍記者の道へと向かわせる──。
庭先から林家にやってきた島崎こま子も、その後のヒロインの人生に深く関わる人物だ。島崎藤村が姪との禁断の恋を描いた『新生』のモデルであり、実の叔父、藤村との子までなしたという女性を演じるのは、天野はな。可憐な容姿と力強い語り口で、男にすがることなく生きようと地下活動家となり、貧民託児園“ひとりじゃない園”のために奔走する女性の姿を、真摯に、また愛らしく表現していく。
第1幕を通した後、俳優たちを前に栗山は、多岐にわたって──台詞の言い回し、リズム、アクセントにタイミング、さらにはピアノの音色に至るまで、事細かに指示を与えていく。
場の雰囲気はとても和やか、時折俳優たちから大きな笑い声!芙美子を演じるのはこれが5度目となる大竹も、新たなキャストたちとともに、この物語にあらためて向き合い直している様子。